冬。早朝。
冷たく、されど澄んだ空気。神を奉るこの場には朝霧と新鮮なこの空気は相応しい。そう神社――博麗神社には、相応しい空気といえる。
そして、その神社の巫女、博麗霊夢、彼女にも相応しい……、
「あ〜、朝から寒いわね〜。妹紅でもその辺歩いてないかな〜」
……神職の巫女にも例外はあるらしい。まあ、この寒い中、「今日も一日、身を引き締めて参ります」なんて、この娘が言えば、それこそ次の日は空に龍でも現れそうだが。
この神職にしてはマイペースな巫女さん、霊夢。彼女はこの幻想郷においてはありとあらゆる意味で『例外』な存在だろう。
人妖問わず信頼され、幻想郷の多くの有力者とも繋がりがある人間。さらに、これまで彼女は幾度も幻想郷の異変を解決してきた。まさに『例外』な存在だ。
しかし、そんな彼女も今から巻き起ころうとしている事件。これはそんな『例外』な彼女にとってもこれまでに類を見ないまさに『例外』なもの。
幻想郷始まって以来の珍事がこの冬巻き起こる。
「こういう寒い日はやっぱりコタツで、お汁粉よね」
啓内の掃除を早めにというか、開始5分で中止して私――博麗霊夢は居間でくつろいでいる。目の前には昨日、里で買ってきた餅で作ったお汁粉。そして、入れたばかりのお茶。見てるだけで心が温もる。
「それじゃ、さっそく…」
箸に手を伸ばす。さあ、今度は身体も温めよう。
「相変わらず、サボってんな」
「あら、毎度のことだけでいいタイミングね」
「まあな、私もそう思うぜ」
そう言いながら彼女――霧雨魔理沙は(毎度のことだけど勝手に)自分の分のお汁粉を装うと、私の前に座る。ここまではまあ、いつもどおり。だけど、少し変な気がする。
「ねえ、あんた、今日は来るの早くない? まだ朝の九時過ぎよ?」
「ん、今日はちょっと呼ばれてきたんでな」
「呼ばれた? 私は呼んでないわよ?」
「まあ、慌てるなよ。すぐに皆揃うから」
「皆?」
まだ年末の忘年会には少し早い。それなのに『皆』ってどういうこと? それを聞くよりも早く、その皆の内の1人が居間に入ってきた。
「あら、魔理沙、早いわね? あなたが時間を守るなんて、明日は龍でも出るかしら?」
「私は仕事はきっちりこなすんだぜ? 知らなかったか?」