「あ〜、やっと着いた……」
祭り開始から、遅れること1時間。ようやく町についた。まったく、こういうときはのんびりと行きたかったのに、誰かさんが遅刻したせいで、結局、飛んでいくことになっちゃった。
「もう始まってるみたいね……」
隣でアリスが呟く。声のテンションはいつもどおりだけど、その目は始めて見る(祭りには参加したことが無かったんだって)祭りに、興味津々みたい。人生(?)やっぱり、祭りは知っておかないとね。
と、そんなアリスの隣で、今回の主催者兼、原因――霧雨魔理沙が「おお〜、今年も凄いぜ〜」とか、盛り上がってる。
「ちょうど、盛り上がってるじゃないか。いいタイミングだぜ」
こいつも目をキラキラ輝かせてる。さすが、祭り好きだ。今日の私達の浴衣(私は赤と白、魔理沙は黒と白、アリスは水色と白の浴衣。なんか色彩は普段と変わらないな)を用意しただけはあるわ。本当、、初めてのアリス以上にハイテンション。まあ、それは別にいいけどね。祭りは楽しむためにあるんだし。けど、
「あんた、少しは反省しなさいよね」
「ん? 良いじゃないか。やっぱ、祭りは盛り上がってる時に来るのが一番だぜ」
「それは否定しなけど、慌てて飛んでくるのは違うと思うわよ」
「う、まあ、折角の祭りだし、私も反省してることだし、この辺にしとこうぜ」
「反省している人は自分で『反省している』なんて言わないと思うわ」
「うっ。アリスまで……。悪かったって。お詫びになんか奢るから、勘弁してくれよ」
「よし。じゃあ、行きましょう」
夜の町。そこは私が知ってる町と、同じものとは思えないほど、賑やかだ。周囲を取り囲む堤燈。その灯りの元の屋台。そして町を賑わす歓声。祭りというのは本当に不思議なもの。今日この日だけは人も妖怪も妖精も関係ない。皆、ここの、幻想卿の住人が一つになって楽しんでる。
(すごいな……)
いつもの宴会も盛り上がるけど、さすがにこれには勝てない。けど、それで良いんだと思う。毎日が祭りだと、ありがたみがなくなるしね。だから、それはいい。ただ、一つ、悔しいことがあるとすれば、この祭りになんでウチの神社が参加していないのかってこと。普通、こういう時こそ、神社だと思うんだけどな。そうすれば参拝客でお賽銭も入るし、出店のショバ代も取れるのに。
「あ〜、本当残念」
「何が残念なの?」
首を傾げるアリス。やはり、この悲しさは当事者にしか理解できないか。
「あ〜霊夢は毎回、祭りのたびに神社も絡めないかな〜とか、思ってんだよ」
「何で?」
「ショバ代に、お賽銭。つまり金だよ。なあ、霊夢?」
「悪い?」
「悪くは無いけど、無理だと思うわ」
無理と、言われるのは納得できない。だって神社で祭りって、定番のはずでしょ。
「なんでよ、アリス?」
「だって、あの神社は人里からは結構距離もあるし、そもそもこの祭りは神社とは関係が無いから」
「うっ……」
さすがアリス。冷静な意見だわ。そう言われると、何も反論できない。
「さて、そんな話はここまでにして、楽しもうぜ」
「そうね」
「折角の祭りだから楽しみましょう」
この夏祭りは本当に賑やかだ。町のいたるところに付けられた飾りに堤燈。そして、それぞれのポイントに設置されている作り物(町の人や妖怪が作った見世物)も凄い。お、この紅魔館とか凄く良く出来てる。製作者の名前は……紅美鈴? ん〜、なんか聞いたことがある名前だな〜? でも、誰だっけ。思い出せない。まあ、いいや。
と、こんな作り物に加えて、中央広場での盆踊りもあるし、花火大会も盛り上がる。本当に夏を全力で楽しむイベントだ。
そんな芸術も素敵なお祭り。だけど、やっぱりメインは、
「あ、綿菓子。発見。さあ、魔理沙、早速、奢ってね」
やっぱり、出店。普段はあんまり食べる機会が無いものも、この日は普通に食べれるのが嬉しい。しかも今日は魔理沙の奢り。沢山食べちゃおう。
「げ。あれ、結構高い……」
後ろから魔理沙の声が聞こえるけど、無視無視。いつも人の家でご飯食べて行くんだから、こんな時ぐらいはご馳走にならないと。
アリスもその辺、しっかり解かってるみたいで、隣で色々物色してる。こんな時ははしゃいだ者勝ちね。
「魔理沙、ご馳走になるわ」
「アリスもかよ!?」
とりあえず、最初は綿菓子3人前。私達が満足するまで魔理沙には付き合ってもらわなきゃ。
「綿菓子3つくださいって、あら……」
「あ、いらっしゃい。巫女に魔女2人」
綿菓子の屋台。その奥で綿菓子を作っていたのは、ウサ耳の少女妖怪。イナバ。こいつが人里に居るなんて珍しい。
「あんたが出店してるとは思わなかったわ」
「そうね。自分でもこんなことになるとは思わなかったわ」
竹林の奥、永遠邸に住むイナバ。普段は竹林から出ても来ない。顔を見せるのは宴会の時ぐらいのレアキャラ。そんなイナバが人里に顔を出して、さらに出店まで出しているなんて、何が合ったんだろう?
魔理沙も気になったみたいで、直球勝負でそれを問う。
「なんで店出してんだ?」
「少し前に森の古道具屋で欲しいもを見つけたの。だから、お金が必要なの」
「あなたが欲しがるものって何? 気になるわ?」
アリスも興味を持ったみたいだ。妖怪のイナバがあの古道具屋で欲しがるものとなれば、確かに気になる。物によってはまた、騒動の原因になるかもしれないし。
けど、そんな私の緊張はイナバからの答えで、あっさりと消えた。
「外の世界の乗り物よ。マウンテンバイクっていうのよ」
「乗り物?」
「そう。ほら、私って竹林に住んでるでしょ。竹林って歩きにくいのよ。それで何か良い物は無いかと、古道具屋に行ったら、その乗り物があってね。店主が言うには乗りこなせれば、どんな悪路も進める乗り物だって言うから。私は普段、竹林で生活してるからね」
あ〜、なるほど。確かに竹林は歩きにくい。納得。
「でも、あいつ、売るかな?」
「あ、それなら大丈夫よ。なんか、試しに乗ろうとして、失敗して怪我したみたいだから。もう、店には置いておきたくないって言ってたわ」
あそこの店は、商売は二の次で、趣味最優先。気に入ったものはまず、手放さない。特に、それが外の物で使い方が解かっているものなら、尚更。だけど、今回はその心配は無いらしい。
「……情けない男ね」
店主には悪いけど、アリスに同意。今回は本当に情けない話だ。
と、そうこう、話してる内に綿菓子が袋に詰められていく。
「はい、綿菓子、3つお待たせ。3つで1200円になります」
「魔理沙」
「解かってるよ」
渋々と財布からお金を出す魔理沙。笑顔で受け取るイナバ。そして、綿菓子を楽しむ私とアリス。実に正しい祭りの風景ね。さあ、どんどん行くわよ。
「あ、あの八目鰻美味しそうね」
次の獲物を見つけたアリス。うん。確かに美味しそうな匂い。
「いっ!? まさか、あれもか!?」
「当然よね。今日はご馳走になるわよ。魔理沙」
「霊夢、少しは手加減してくれよ〜」
「駄目。私達を屋台が待ってるわ」
「これ全部見てみたいわ」
「2人とも勘弁してくれ〜」
魔理沙の懇願は却下して、今から屋台めぐり全力勝負よ。