「そろそろね」
「楽しみだわ」
「そうだな」
川原の特等席に陣取る私達3人。 ん? 何の特等席かって? 決まってるじゃない。夏祭りの最終イベント打ち上げ花火よ。
早めに屋台めぐりを切り上げたおかげで、いい場所が取れた。これで、思いっきり花火を楽しめるわ。
「ねえ、打ち上げ花火ってどんな感じなの?」
夏祭りが初めてのアリス。当然、夏祭りと縁が深い花火も見たことが無い。だから、今から楽しみで仕方がないみたい。いつもどおり冷静そうに振舞っているけど、目が輝いてるもの。
「色とりどりの火の粉が、花びらのように夜空に舞うのよ。その名の通り、火の華ね」
我ながら上手い例え。そして、その後に魔理沙も……。
「一瞬で散るところがまさに華だぜ。私の財布の中身も散ったけどな……」
これは華麗にスルーね。
「ま、百聞は一見にしかずってね。楽しみにしてなさいな」
「無視かよ!?」
当然、突っ込みも無し。アリスもその意図を汲んでくれたみたいで、
「本当に楽しみだわ」
「アリスまで!?」
と、2人で華麗にスルー。と、魔理沙はイジメはここまでにして、そろそろ本当に花火の時間ね。んじゃ、ここで、花火を楽しむための『お楽しみアイテム』を出しますか。
「はい、2人ともこれどうぞ」
「お。かき氷じゃないか」
「それどうしたの?」
さっき、ここに来る前に買っておいたかき氷。しかも氷の妖精特注品。味は苺ミルクにマンゴーとハワイアンブルー。
「さっきチルノから買ったの。さすが氷の妖精特製ね。『何時までも冷たくひんやり解けにくい』って本当だわ。さ、好きなのとって」
「んじゃ、私は苺ミルク貰うぜ」
「私はその黄色いのを」
「はい、マンゴーね」
「なあ、霊夢が持ってるその青いのは何味だ?」
「ハワイアンブルーって言うのよ」
「そりゃどんな果物だ?」
「さあ? 私も知らないわ。もしかしたら外の果物かもね」
「どんな味がするの?」
「さわやかな味」
「ふ〜ん」
そんな解説はここまでにして、早速、かき氷をサクッと一口。う〜ん冷たくて美味しい。本当にさわやか、すっきりな味。夜風に当たりながらかき氷。身も心も涼しいわ。
お、川原の方で、人が動いてる。そろそろね。
「と、そろそろ始まるわね」
川原が静かになる。皆、これから始まるってことを感じたんだ。そして、
ヒュ〜ン
音を立て火の玉が空に上がり、
ドン!!
弾けて、夜空に火の華が咲く。
「これが……花火」
初めて見る花火に感動するアリス。良かった。気に入ったみたい。
「……今年のも綺麗ね」
パラパラと散っていく花火。その散り際までも美しい。まさに華だ。
余韻に浸る私とアリス。私達よりも少しだけ、早く余韻から抜けた魔理沙が、私達を余韻から引っ張り出す。
「おいおい、2人ともこんな時は『玉屋〜』だろ?」
「? そうなの?」
「ああ、そうね。確かに」
「どんな意味なの?」
「さあ?」
そういえば、意味は知らない。あれってどんな意味なんだろう?
『ちっちっちっ』と指を振る魔理沙。お、いわれを知っているかしら?
「お前ら知らないのか? あれは夜空に咲き広がる花火の姿が、弾幕ごっこに似てるから玉屋〜って言うんだぜ」
自信一杯の魔理沙。けど、それはなんか怪しいんだけど?
「それ本当なの?」
アリスも流石におかしいと思ったらしい。そして、突っ込まれた魔理沙からは自信が少しずつ抜けていく。
「多分な。こないだ文に聞いたから……まあ、間違いないんじゃないか?」
「怪しい話ね」
ヒューン。
ドン。
「あ、玉屋〜」
花火に声を合わせるアリス。
「そうそうそんな感じだぜ」
魔理沙もアリスも楽しそうだし、ま、いっか。
「お、大きいのが来たわね」
ヒューン。
ドーン。
『玉屋〜』
声がはもる。なんか、こういうのって本当に楽しい。やっぱり夏はこうじゃなきゃ。
四季は巡る。春夏秋冬の中、私達は生きていく。そりゃあ、生きていくからには笑えることばかりじゃない。けど、だからこそ、生きている今を、全力で楽しまなきゃ。その季節に合わせてのんびりとね。
終