「あ〜、暑いわね〜」
さっきまで涼しかった縁側にも、日の光が入ってくる。光はあっという間に空気を暖めて、私から冷気を取り上げる。暑さの原因を見上げれば、お天道様は丁度、空のど真ん中。時刻はお昼時。そろそろお昼ご飯でも食べなきゃと思うけど……。
「暑い……」
この暑さの中、動く気になれない。本当、どうしたものか。お腹も少しは空いてるんだけど……。
(面倒よね……)
面倒だし暑い。今の私には多少の空腹よりも、この暑さが問題だ。とりあえず、さっきから廊下の冷たい場所(日が当たってない場所か、私が移動して時間が立った場所)をゴロゴロと転がってる。
「暑いわね……」
「本当に……」
私の独り言に応える声。私は寝転がったままその主との会話を続ける。
「何時来たの?」
「今です」
「珍しいわね。1人?」
「ええ。お嬢様もパチュリー様もお屋敷で休まれてるわ」
「ふ〜ん。まあ、レミリアは元々、日光が苦手だし、パチュリーも体弱いしね」
「そういうことです」
「それで今日はどうしたの咲夜?」
身体を起こす。そこにいるメイド姿の少女、(どうみても私より年上だけど)十六夜咲夜と顔をあわせる。
「……ようやくおきましたね」
「良いじゃない。この暑さでだるくて仕方がないんだから」
「気持ちは解かりますけど……」
「それで今日はどうしたの? お茶でも飲みに来たの?」
「まあ、似たようなものです。これを持ってきました」
「? 何、その風呂敷?」
咲夜が手にしているお守り。それはやたらと大きい。そして丸い。見た感じは夏の定番のアレだけど……。
「多分、あなたが想像している通りのものですよ」
咲夜はそれを私の隣に置くと、『スルリ』と風呂敷を開く。そして、中から出てきたのはまあ予想通りのモノ。しかし、ある意味想像を超えたシロモノだ。これ、どうしたんだろ?
「……咲夜、これ何?」
「何って、見てのとおりスイカです」
「見ての通りって、氷漬けなんだけど?」
「今日は暑いですからね。悪くならないようにあの氷の妖精に頼みました」
「なるほど」
確かにこの季節はあの氷の妖精の力は便利だ。物の保存に丁度良い。氷漬けはやりすぎな気もするけど。
「けど、このスイカはどうしたの?」
「これはウチの屋敷で栽培したものです。豊作なのでおすそ分けです」
「へぇ〜、ありがとう」
こういうお客様なら大歓迎。本当にありがたい。これはレミリアに感謝しないと。
「けど、以外ね。咲夜が家庭菜園なんて」
「それは私が創ったわけじゃないですよ」
「それじゃ、まさかレミリア?」
家庭菜園を楽しむレミリアって想像付かないけど、他にそんなことしそうなのが思い浮かばない。そして、私の『まさか』を咲夜が否定する。
「……何がまさかなのかは気になりますが、お嬢様ではないです。ちなみにフランドール様でもパチュリー様でもないです」
おかしい。あの屋敷で家庭菜園なんてしそうなの、いや、出来そうなのが想像付かない。
「え? それじゃ誰が創ったの?」
「ウチの門番です」
「門番って、あの中国?」
「はい」
そうか、忘れてた。確かにあの中国なら、なんとなく納得できる。うんうん。あの門番が創ったのか。そうか〜。
「……変な薬とか、ダンボールとか混ざってないでしょうね?」
「? なんでそんなものがスイカに混ざるんです?」
「ゴメン。忘れて」
「?」
外の世界じゃ、中国の食料品が危険で、なんにでも薬やダンボールとかが混ざってるって、聞いてるけど、まあ、大丈夫か。あの門番はそんなことはしそうに見えないし。
「それではこれで……」
用件を済ませたって事なんだろう。綺麗な一礼をして、帰ろうとする咲夜。けど、私はこのまま帰す気は無い。こんなものを持ってきて、このまま帰るのは反則だ。
「待ちなさいよ。咲夜」
「? なんです?」
「このまま帰る気?」
「ええ、スイカも渡しましたし」
「それは少しマナー違反でしょ」
「? どういう意味です?」
本当にわからないんだろう。咲夜はキョトンとしている。仕方ないな〜。
「こういうのを持ってきたら、上がって一緒に食べていきなさいよ。1人じゃ食べきれないわ」
「え?」
あれ? なんだか、さらにキョトンとしてる。おかしい。私、そんなに変なこと言ったっけ? もしかして咲夜はスイカ嫌いなのかしら?
「ほら、早く。それとも何か用事でもあるの?」
「いえ、別に今からは空いてますけど……」
何かおかしい。何をそんなに戸惑ってるんだろう? けど、嫌がってるようにも見えないし、それに時間もあるって言ってるしいいか。それじゃ私のルールに付き合ってもらおう。
「さ、上がって」
「ええ♪」
ニッコリと微笑む咲夜。別にスイカが嫌いって訳でもないみたい。良かった。