夏――

暑いのは苦手。だけど、この季節は好き。人も妖怪も妖精も幽霊も、皆が夏という季節を楽しむ。当然、私も楽しむ。だから、この季節が好き。まあ、ここの住人はみんな春夏秋冬、四季を楽しんで生きているのだけど。

まあ、今は夏。とにかくこの季節を楽しまなくちゃ。ん? 暑いのは苦手なんじゃ無いのかって?
苦手よ。だけど、折角の夏なんだもん。楽しまなくちゃ勿体無いでしょ?

さあ、私――博麗霊夢。今日も1日、適当に夏を楽しむわよ。

東方夏楽譚
霊夢の(適当な)夏の一日

第1話 朝 

「ふぁ〜、朝は涼しくていいけど、流石に眠いわね〜」

 やたらと広い啓内。それを1人で掃除するのは、いつものこととはいっても、やっぱり面倒くさい。今は夏。だから、枯葉とかは無いけど、ゴミが無いわけじゃない。けど、不思議に思う。このよくわからないゴミは何処から来るんだろう?

「やっぱり、妖精がイタズラでもしてるのかしら?」

「あら? どうしたの? 溜息なんてついて?」

「え? その声は……」

 私は後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声、それが誰のものか思い出すよりも早く、声のほうに振り返った。振り返った先に立っていたのは、可愛らしいフリルのついた着物姿の女性と、その後ろに付き従う洋服に刀、しかも2本と、アンバランスな格好をした少女の2人。 

「おひさしぶりね。巫女」

フリルの着物のオットリした女。そのオットリとした声を聞くのは、確かに久しぶりだ。

「幽々子に妖夢? 久しぶりね。どうしたの?」

 西行寺幽々子。それがこのオットリした女の名前。いつものニコニコのんびりな女だ。けど、その見た目と性格とはうって変わって、その正体は亡霊の姫と、物騒なヤツ。実際、死を操る能力を持ってるもんだから、危険極まりない。普段は私よりものんびり過ごしてるけど、これでも霊の管理をしてるらしい。

「ねぇ、巫女。今、失礼なこと考えなかった?」

「考えてない。ただ、あんたのことを思い出してただけ」

「どうえ、また『物騒なヤツ』とか考えたんでしょう?」

「その通りでしょう?」

「酷いわ。私は心優しい霊なのに〜」

 『酷いわ』って言ってる割には、顔はニコニコ顔だ。まあ、こいつはいつもこんなんだけど。なんか、怒ってるっぽいけど、そんなことは置いておいて、用件を聞いてしまおう。

「それで何の用? 今日は宴会じゃないわよ?」

「それは私から話します」

 隅っこでいじけてる主の変わりに、緑の洋服の少女(刀2本+でかい霊魂付き)――魂魄妖夢が前に出て来る。こいつは幽霊と人間のハーフで、西行寺家の庭師。生真面目なヤツだ。こいつが話出すってことは、幽霊絡みで何かあったぽい。

「実はお盆の件なんです」

「お盆?」

「ええ。もうすぐお盆。7月盆でしょう?」

「ああ、そうね〜」

 そういえば、そうだ。もうすぐ7月盆だ。この7月盆ってのは、文字通り7月に行われるお盆のこと。外じゃ、基本的には8月にお盆をやるらしいけど、地域によっては7月にお盆をやるって話が、何年か前に流れて、結局、ここでは7月と8月の両方にお盆をやることになってしまった。霊達は喜んでいるけど、管理する側の幽々子や妖夢には大仕事なんだろう。

「それで7月盆が何? 何かするの?」

「そうです。お盆は霊がこの世に還る日。しかし、最近はお盆も何も関係無しに、この世にいる霊が多すぎます」

「そうね。人間や妖怪も生きたまま、あの世に行くことも多いしね」

「ええ、そうです。なので、今年のお盆を利用して、霊の管理を徹底したいのです。なので……」

 ああ、そういうことか。それなら返事は決まってる。

「面倒だから嫌」

「ちょっと巫女!?」

 妖夢にとっては予想外な答えだったのか、彼女は面食らった様子で、詰め寄ってくる。

「あなたの仕事は異変の解決でしょう!? それなのに面倒だから断るってっ……」

 まあ、言いたいことは解かる。けど、そんなの断るに決まってる。だって、

「もう、異変じゃないじゃない」 

「え?」

「1年以上も続いたら、これはもう異変じゃなくて変化よ。だから、私が解決する理由は無いわ。まあ、何か悪さをするようなら、退治するけど」

「いや、しかし……」

「霊たちがいる風景が自然なら、それでいいじゃない」

 それが私の素直な感想。これで十分だ。『そんな……』と唖然な表情をする妖夢。そして、その後ろから何時の間にやら、復活した幽々子が顔を出してくる。

「ほら、言ったでしょう? 巫女は協力してくれないって」

「幽々子様、しかし……」

「巫女が言うとおりよ。これは異変ではなく変化。それを元に戻すということは時計の針を逆に回すこと。そんなことに意味は無いわ」

「………」

「このことで本当に『異変』が起きれば、その時は私達が何も言わなくても巫女は動くわ。そうでしょう?」

「多分ね」

「なら、ぞれで良いじゃない。その時、力を借りるわ。巫女にもあなたにも」

「……幽々子様、解かりました」

「それじゃ、巫女、私達はそろそろ帰るわ。今度の宴会を楽しみにしているわ」

「いいけど、たまには準備も手伝いなさいよ」

「それはまた今度ね」

「それじゃね」

 鳥居をくぐって行く2人の後姿を見送る。さて、お客さんも帰ったことだし、お茶にしよう。

 縁側に置いておいたお茶と饅頭。やっぱりこれが楽しみで……って、無い!?
 
 お盆に綺麗にまとめておいたお茶とお饅頭のセットが無い。その代わりにお饅頭が乗っていた皿には紙切れが一枚。

『お茶とお饅頭、ご馳走様でした。 幽々子』

「あののほほん幽霊!!」

 さっき、妖夢と話していた隙を疲れたんだろうなぁ〜。あ〜、もう、やられた。

「仕方ない。入れなおすか……」

 お茶はまだあるし、おやつも昨日、咲夜から貰った水羊羹がある。

「さっそく準備しなきゃ」

 あの水羊羹冷やすと美味しいのよね。楽しみ〜。

第2話 〜昼〜 へ