第8幕 マルドゥーク
目の前に現れた蒼いローブの男、ブレス。彼の醸し出すその雰囲気に、大神、いや、花組全員が萎縮する。
「くっ……」
「寒い……」
「こいつは……」
「何……これ?」
「な、なんだと……」
「うっ……」
(……こいつは……まずい……危険すぎる)
これまで幾度となく、巨大な魔と戦ってきた大神もブレスの放つ気に飲み込まれかけていた。
(く、駄目だ……このままじゃ……)
周辺全てを支配する凍りつく空気。その中、大神は必死に声を上げる。
「……ブレスと言ったな……おまえが人型蒸気を操っていたのか? 目的はなんだ? 何故、俺達の事を知っている? そもそも貴様は何者だ?」
大神は雰囲気に飲まれぬよう、一気に捲し立てる。そんな大神の姿にブレスは冷たく微笑む。
「フフ……何をそんなに怯えている? それでは巴里華撃団の名が泣くぞ? 大神一郎中尉」
「!? どうして俺の名を?」
「君だけではない。エリカ・フォンティーヌ、
グリシーヌ・ブルーメール、コクリコ、ロベリア・カルリーニ、北大路花火……この場にいる者の名は全て知っている。そして、君たちの活躍も……」
(こいつ……)
次々と上げられた隊員の名に大神は動揺の色を浮かべる。そんな大神達の反応を知ってか知らずか、ブレスの淡々とした口調が僅かに饒舌になる。
「君たちのことはよく知っている。我々の世界では知らぬ者はない……と、これが私の答えられる範囲の答えだ……」
「えっ……?」
意味を理解できず、大神は間抜けな声を上げる。そんな彼にまるで教師のようにブレスは応じる。
「先程の質問の答えだよ。何者か、何故知っているかと聞いてきただろう? その答えだよ。つまり、君たちのことをよく知ることの出来る力を持った世界の人間……と言うことだ」
「貴様……!!」
冷たく人を見下すその態度に、大神は怒りを露わにする。しかし、ブレスはそれを気にも止めず続ける。
「あと、君が人型蒸気と呼んだそれ『ソード』を操っていたのは私ではない……」
「何……?」
ブレスのその答えはあまりにも意外なものだ。が、それはすぐにブレス本人の口から、納得いくものへとなる。
「これらは演算機にプログラムされたデータによって、動いていた。私ではない……最もそのプログラムを命じたのは私だがね」
「ふざけるな!!」
「ふざけてはいない。むしろ私は、真剣に、真摯に答えている」
答えるブレスの声は、彼の言うとおり確かに真剣で、真摯なものだ。とはいえ納得いくものではないが。
「さて、最後になったが、目的は君たちと『ソード』を戦わせることだった」
思わせぶりな言い回しに、苛つき、付き合いきれないと思いながらも、大神は聞き返す。
「何のために? そして、だったとは何だ?」「質問が増えたな。まあ、いいが。1つ目の答えはテストだ。我々が開発したソードの実戦テスト。と、同時に君たちの力を図ることも目的に含まれていた。これ以上は答えられない。2つ目の答えだが、ただ単純に目的が変わったのだよ」
「変わっただと?」
その答えに大神は悪寒を覚える。何故ならその先の答えが決して良いものではないというのが分かるからだ。
「フフ……」
まるで光武の中の大神の表情を見透かしたかのように、ブレスは微笑む。そして、
「そう、君たちにはこれのテストにも付き合って貰うことにした」
と、言い終わると、パチンッ!!と指を鳴らす。それを合図にブレスの身体を蒼い霧が包み込む。
「来る……!!」
直感的に大神は感じていた。脅威が
やがてその霧を掻き分けるように一体の巨大な人型蒸気が姿を現した。
「で、でかい・・・!!」
それがそれを見て、一番最初に出た言葉だった。
その巨大な彼と同じ蒼い人型蒸気から、ブレスの声が発せられる。
「これはさきほどのソードの発展機で、名を『マルドゥーク』という」
光武の約3倍もの巨体を持つ機体が、そう名乗る。
マルドゥークはその両手に持たれた大剣を光武に、巴里華撃団へと向ける。
「さて、お決まりの『悪役の目的ばらし』は終わりだ。来たまえ、巴里華撃団」
それが始まりだった。