第11幕 絶対正義

 

  太刀を向ける光武。向けられるマルドゥーク。その2機に動きはない。が、2機の間には決定的な違いがあった。光武は動けない。マルドゥークは動かない。ただそれだけの絶対的な違い。それがこの2機の戦いの結果だった。

「………」

 ブレスは何も語らない。理由はただ単に目の前の相手に語る必要がないからだ。今、彼が成すべき事はこの舞台に幕を引くことだ。

 マルドゥークは、その手に握られた大剣を振り上げる。そして、

「さらば……」

  と、幕を引く覚悟を決め、剣を振り下ろす。

 ブンッ!!

 空を裂き、振り下ろされる剣。だが、その剣が切れたのは空気だけだった。

 パンッ!!

 光。目の前で輝くそれに剣ごとマルドゥークは弾かれる。

「!?」

 この時、ブレスの思考がはじめて乱れた。

 突然の出来事に、意識が対応出来ず混乱する。

「何が起きた!?」

 ブレスはとっさに体勢を立て直すと、カメラを光へと、光を放つモノへと向ける。

「貴様……!?」

 ブレスはその目を疑った。モニターに映し出されたモノ。それは光を放つ、天使の翼を持った赤い光武ーーエリカの機体だ。

「大神さんは私が守ります!!」

 エリカのその意志を秘めた声が奇跡を起こす。

 パァァァァァァァァァァァァァァッ!!

 エリカ機を中心に光は十字に広がっていく。その光はエリカの癒しの技『エヴァンジル』だ。

 対象の傷を癒すエリカの霊力を技へと昇華させたもの。その対象は生物、無機物問わず癒される。それが従来のこの光だ。

 今、広がるこの光は従来の癒しものとは比較にならない。もはや、再生のレベルだ。

  大破し、倒れていた5機の光武が癒されていく。そして、それと同時にそのパイロット達も意識を取り戻す。

「うっ……ここは?」

「私は……?」

「う〜ん。あれ、どうしたんだっけ?」

 事態を把握できないまま、ゆっくりと立ち上がるグリシーヌ機、花火機、コクリコ機の3機。それに対し、ロベリアが答える。

「チッ……寝ぼけてんじゃないよ。あの、でかいのにやられたんだろが……」

 そう言い放つロベリア。彼女は既に身構えている。

「お前達……!?」

 立ち上がった4機の光武に驚愕するブレス。エリカに癒しの力があるということは、資料により知っていたが、今、起きた奇跡は資料のそれを越えていた。

(ん? 4機?)

 ここで彼は光武の数が足りないことに気づいた。光武は全部で6機。しかし、目の前には4機。2機足りないのだ。

(どこだ!?)

 ブレスの全てのカメラが白と赤の光武を探す。そして、頭部のカメラが2機を捕らえた。

「上だと!?」

 マルドゥークの頭上にそれはいた。光に包まれた2機の光武。そして、それに気づいたのと同時に2機は動き出す。

「行くぞ。エリカ君!!」

「はい!!」

 ババババババババババババババババッ!!

 上空から豪雨のように打ち出されるバルカン。マルドゥークの装甲に亀裂が入る。

「ヌオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」

 マルドゥークの巨体に衝撃が走る。ここで初めて、ブレスが苦痛の声を上げた。

 そして、その衝撃に続き、

「でいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ズバッ!!

 空中から流れるような2本太刀筋が、マルドゥークの装甲に2本のラインを描いた。

「がああああああああああああああっ!!」

  痛みがブレスに声を上げさせる。この瞬間、ようやく彼は事態を把握した。巴里華撃団が復活したこと。そして、先程までとは比べものにならないほどの力を彼らが持ったことに。

  そしてそれが、ブレスの中に恐怖を生む。戦いの恐怖を。これまでのものは結果の分かった実験だった。だが、ここでその結果は予測できない方向へと進みだしたのだ。結果の分からない実戦テスト。つまり戦いだ。

「フ、フフフ……」

 恐怖、好奇心、闘争心……様々な感情がブレスの中に沸き上がる。そして、その全てが1つの方向へと向く。

 ブレスの意志に従い、マルドゥークは大剣を構える。

「よく、よく目覚めた巴里華撃団!! さあ、戦いを始めよう!!」

 感情を露わにし、剣を振り下ろす蒼い巨人。6機の光武はそれを散開し、避ける。

「マルシェ・シャーン!!」

 最初に動いたのはコクリコ機だった。そのステッキから、小猫を象った霊力が放たれる。放たれたそれは左腕を貫く。それに続き、

「雪月風花!!」

 花火の矢が巨人の右足を射抜く。

「ぬ!?」

 2機の攻撃に巨人は一瞬、それこそ僅かな瞬間たじろぐ。だが、2機の光武が動くにはそれで十分だった。

「ゲール・サント!!」

「カルド・ブリジーオ!!」

 斧と爪から放たれる津波と炎。それはマルドゥークの全身を包み込む。

 グリシーヌとロベリアの攻撃により、火花を散らし、悲鳴を上げるマルドゥーク。だが、

それでもまだ倒れない。

「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

  怒りにまかせ、巨人は剣を横に薙ぐ。その軌跡にそって光が飛ぶが、それが光武を捕らえることは無かった。

 大きく横に薙がれた剣。その生じたスキに、

「もらいました!!」

 声と共に放たれるバルカン。その弾丸の群れは伸びきった右腕を貫く。

「!? しまった!!」

  この時、ようやくブレスに冷静さが戻る。が、それももう遅い。

「クッ……」

 溢れる感情に身を任せたことに後悔するブレス。その目の前には既に白い光武が構えていた。

「終わりだ!! ブレス!!」

「まだだ。まだ終わらない!!」

 ブレスはマルドゥークに残された最後の武器、その巨体をぶつけるべく、飛びかかる。 対する大神は真っ正面からそれに答え迎え撃つ。そのみなぎる霊力を刀に乗せて。

「終わりだ!! 狼虎滅却・震天動地!!」

 ズバァァァァァァァァァァァァァァァ!!

「ロザリオだと?」

 十字を象った光。神爵ブレスの瞳が最後に記憶したのがそれだった。

 2本の大太刀から放たれた霊力の刃は、蒼の巨人を十字に切り裂いてた。

  火花を上げ、爆発していくマルドゥーク。その眼前で膝をつく大神機。最後の一撃で力を使い果たし、大神は気を失っていた。

「隊長!!」

「イチロー!!」

「隊長!!」

「大神さん!!」

 爆発に巻き込まれてく大神機を救おうと、駆けだす隊員。だが、それよりも早く爆発の中に、エリカ機が突入し、大神機を救出した。

「大神さん!!」

 エリカは急ぎ、回線を開き大神に呼びかける。

「……ぐぅ〜」

 それが返事だった。エリカや皆の心配を余所に大神はコックピットで眠りこけていた。

「大神さん……!!」

 心配が怒りへと変わる。が、その穏やかな表情に毒気は抜ける。

「ま、いっか」

  穏やかに、天使のように微笑むエリカ。この時、彼女は心から微笑んでいた。

最終幕へ