「あ〜、疲れた……」

椛がアレを回収してくれたおかげで市場は回れたけど、やっぱりその前のアレのせいで疲れた。少し休もう。

「……それで、ウチに来たんですか?」

「そういうこと」

山。久々の里帰りも兼ねて、古巣に戻ったものの、行く当ても無いので、とりあえず守矢神社に顔を出してみた。こっちの神社も正月準備は終わっている。あとは、年が明けるのを待つだけの状態。違うところがあるとすれば、こっちの神社の正月準備は間違いなく余裕を持って行われただろうということと、初詣に来るのは人間ではなく妖怪だということ。前者は巫女の性格の違い。後者は場所の違い。そして、巫女の違いは割と大きい。特に今みたいな時はこっちの巫女が良い。

「どうぞ」

「ありがと。いや〜、早苗は霊夢と違って気が利くね〜」

霊夢と違って何も言わなくてもお茶を出してくれる所が嬉しい。

東風谷早苗。守矢神社の巫女。本当は巫女じゃなくて風祝というらしい。けど、巫女で良いと思う。だって神社に居るし。

「あ〜、お茶が美味しい〜。というか、本当に美味しいな。このお茶」

「ああ、それはですね、この山で取れた薬草のお茶なんですよ。美味しいでしょう? 萃香さんに合わせて胃にやさしい良い薬草でいれたお茶ですよ」

「至れり尽くせりだね〜」

「ウチは山の中にありますからね。天狗さんや、カッパさん達が色々教えてくれたり、持ってきてくれたりするんですよ。そのお茶も天狗さんから教えてもらいました」

「へぇ〜、あの天狗がね……」

天狗がそんない親切だというのが驚き。基本あの連中は"強気に媚、弱気に威張る”なのに。そこはやっぱり早苗の人徳かな。それに比べてウチ(博麗神社)に来る連中と来たら……。魔理沙を筆頭に変なのばかり。少しは見習わせてやりたい。この場合は霊夢に早苗を見習わせるのか、魔理沙たちに天狗を見習わせるのか微妙だけど。

「ところで、今日は大晦日ですけど、博麗神社は大丈夫ですか?」

「うん、まあ、何とか。今朝まで、徹夜で作業して何とか準備は終わったよ。今、霊夢は布団で爆睡してるけど」

「相変わらずですね、霊夢さんは……」

「まあね。でも、それに比べて早苗は流石だね。余裕持って終わらせてるみたいだし」

「今日ぐらいはゆっくりしたいですからね。ええ、今日ぐらいは……」

早苗からドス黒い何かが滲み出す。顔に笑みを浮かべままというのが、コワイ。

(……アレ? ひょっとして地雷踏んだ?)

「聞いてくださいよ、萃香さん」

「はひ?」

「諏訪子様も神奈子様も何も手伝ってくれないんですよ? 2神とも食っちゃ寝生活。まさにニートですよ!!」

ガラッ!!

「「ちょっと待った!!」」

「お、噂のニート」

「違う!! 私達は汚名を晴らしに来た!!」

「何か言い分があるの?」

「あるよ! あるある。私達は手伝わないんじゃなくて、手伝えないんだよ」

「手伝えない?」

「そう、私は蛇の化身。そして、チビ助は蛙」

「年増蛇もプリティな私も元は爬虫類」

睨みあう蛇と蛙。とりあえず、互いに我慢してるのか、表情を引きつらせながらも話を続けていく。

「「冬は眠くて仕方がない」」

「冬眠しないだけ褒めて欲しい(よ)」

蛙と蛇だから眠くて仕方がない。まあ、それは分らないじゃない。実際、人型の姿をしていても『元』の性質が色濃くでる連中は幻想郷にたくさん居る。けど、このニ神は……。

「……ねえ、ニ神とも聞きたいんだけど」

「何?」

「神奈子は蛇だって言うけど、普段から卵丸呑みしたり、ネズミ食べたりしてるの?」

「するわけが無い。私は神だ。あくまで蛇という属性を持つだけで蛇そのものではない」

「じゃあ、諏訪子は? 蛙ならやっぱり、ハエとか虫とか食べるの? あと、夜にゲコゲコ鳴くの?」

「そんなことしないよ。私も蛙の属性を持つだけで、蛙じゃないし。というか、美少女だし」

きっぱりと言い放つ二神。正直な神様だ。そしてその神の声を聞いた巫女が笑顔の静かに口を開く。

「……ニ神とも、それはつまり今までサボっていたってことですね?」

「さ、早苗……」

「あ、いや、その……」

見ていて可哀想なぐらいに凍りつく神奈子と諏訪子。あ〜、こういうのを蛇に睨まれた蛙って言うんだな〜。

「私に全部押し付けてサボっていたんですね? 3人で暮らしているのに?」

「え〜と、その……」

「お、落ち着いて早苗……」

「ええ、落ち着きますよ。落ち着きますとも。ですから、私に納得のいく説明をしてください。出来ますよね?」

「え、え〜と」

普段の威厳はもうどっかに飛んでったらしく、あたふたとする神奈子。で、獲物を威圧する早苗。そして、

「神奈子、あと、任せた!!」

その隙を見て、全力で飛んで行く諏訪子。お〜、蛙神様早いな〜。

「諏訪子!? 置いてかないで〜!!」

神奈子も出遅れながらも、その後に続いていく。そして、それを止めもせずにただただ静かに眺める早苗。その姿に何か黒いものがかぶる。

「フフ。話の途中で逃げ出すなんて、なんて神様かしら。これはもうじっくりとお話を聞かないといけませんね。フフフ」

(うわ、おっかね〜)

微笑みってこんなに怖いものだっけ? というか、早苗ってこんなにコワイ奴だったっけ?

「というわけで、萃香さん」

「はい!」

「私はあの二神とお話をしなくてはならないので、今日はお引取り願えますか」

「はい。分りました」

「申し訳ありませんね。今度、このお詫びは改めてさせていただきます」

優しく、表情だけは優しく微笑む早苗。そして、軽く会釈した後に、早苗はゆっくりと飛びだっていく。その去り際に「狩りの時間だ」とか、聞こえた気がしたけど、それは気がしただけで、ただの気のせい。早苗はそんな怖い奴じゃない。じゃないはず。

「……帰ろう」

休みに来たはずなのになんか余計に疲れた。帰って酒飲んで寝よ。

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