「なんか、散々だったみたいね」

その言葉と話を聞きながら出してくれたお茶とミカンが霊夢の感想。さすがに今日一日のことには霊夢も同情してくれた。

「そうだよ。折角、遊びに行ったのにこれだよ……」

「まあ、そんな日もあるわよ。お茶でも飲んで忘れなさいな」

「あ〜、これも全部あの烏天狗のせいだ」

最初が躓いたせいで、今日は上手くいかなかったんだ。つまりは、天狗が悪い。今度、「復讐してやる」

「萃香、声出てる」

「え?」

「良いから今日のことは忘れなさい」

「でも〜」

「あと、数時間もすれば今年も終わる。年が明けたら忘れちゃいなさい。それが正しい新年の迎え方よ」

「は〜い」

「それに来年になれば萃香が喜ぶことがすぐに起きるわよ」

「? 何それ?」

「それは……」

霊夢が答えようとしたその時、襖が「ガラッ」と、乱暴に開く。そして、入ってくるのはいつもの黒い奴。

「おーす。よお、今日も寒いな」

入ってきた黒い奴――魔理沙を見て霊夢は深く溜息をつきつつ答える。

「……コイツが原因で起きることよ」

「あ、なるほど♪」

魔理沙が原因で起こること。というか、魔理沙がやることと言えば宴会。そして、魔理沙のことだからそれはすぐに"新年会”という形で開かれる。うんうん。良いことだ。宴会は良い。色んな食べ物に酒が飲める。確かに嬉しいことだ。

「ん? なんだよ。2人して人の顔見て?」

「別に♪」
「別に…」

私と霊夢は同じ言葉で答える。けど、そのテンションは割と逆。私は宴会が楽しみ。霊夢はその片づけが面倒。まあ、霊夢も大変だろうけど、今回は私も手伝うから♪

私達の顔に少し魔理沙は考えこむけど、すぐに「ま、いっか」と、本題を切り出してきた。

「霊夢。新年会やるぞ」

「いいけど、いつやるの?」

「明日って言いたいところだけど、正月は霊夢の数少ない稼ぎ時だからな。4日にまけといてやるぜ」

「そりゃどうも」

魔理沙にしては常識的な判断。霊夢も特に反論しない。これが元旦とか言ったら『元旦は神社の稼ぎ時!!』って絶対に吠えてたな。

魔理沙は背負ったバッグを目の前に下ろす。そして、あからさまに、

「あ、そうそう、今年は凄いもん用意してるんだぜ」

とか、言い出す。分りやすい奴だな。

「何?」

「知りたいか? 仕方ないな。特別に一足早く教えてやるぜ」

「あんた、言いたくて仕方がないでしょう」

霊夢のつっこみを無視して魔理沙は、バッグをゴソゴソと漁りだす。やがて、その中から、何やら青いビンを取り出す。

「これなんだ。ポーションって飲み物だ。外の世界の流行らしい」

「…なんか嫌な予感がするわね? それって大丈夫なの?」

「大丈夫だろ。なんでも飲めば体力回復って話だからな」

「胡散臭いわね〜」

いつもの調子で、いつもとは違う、面白い話をする2人。駄目だ。顔がにやける。

「ん? 何笑ってるんだ、萃香?」

「2人見て笑ってるんだよ♪」

「何で?」

「2人とも来年の話してるんだもん♪」

「来年の話をすると鬼が笑うんだったな」

「そして、"笑う門には福が来る”よ」

「ってことは来年は良い年だね♪」

良い年。来年は良い年だ。その証拠に新年早々"新年会”をやる。またそこで、皆が笑う。だから、それは良い年。今年と同じように。今年以上に良い年。何より今ここで私達が笑ってるから今年も良い年で終わるし、来年も良い年になる。それは間違いない。鬼の私が保証するから。