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中編 1年生とその他編

「さ〜て、どこ行く、相沢?」

「そうだな……」

 3−Aでの昼食も終わり、俺と北川はやることも無く、合いも変わらず校内をぶらついている。

 面白いことは無いかと、3年棟を見ては回ったが、これといって暇を潰せそうな

ものは無かった。その為、今は1年棟にまで足を伸ばしている。

 今いる1年棟も、2年棟、3年棟に負けず劣らず、気合が入っている。ここまで来ると創立祭じゃなくて、本当の『お祭り』だ。

 現に全学年の出し物の8割方は何らかの店だ。出店の出店数は下手をすれば、田舎の商店街の店よりも多いだろう。

 そんな、豪華な祭り会場の中、俺は見覚えのある2人の後姿を見つける。あれは真琴と秋子さんだ。

水瀬秋子――さっきも少し説明したが、もう一度しておくと名雪の母親で、俺の家主兼現保護者で、とにかく謎の多い人。料理の達人。美人。年齢、職業は謎。

以前、17歳の娘がいるとは思えない容姿に北川が「おそらく、水瀬さんお母さんはまだ31か2だな。いや、下手をすると20代後半かも」とか、漏らしていた。俺がいくらなんでも20代後半は無いだろうと言うと、「普通は無いだろう。けど、水瀬家には旦那はいない……当時、学生だった水瀬さんお母さんを、お父さんが……。おそらく、水瀬さんのお父さんは今頃、堀の中だな」と、北川は顔を伏せた。

 その場は笑って済ませたものの、未だに真相は謎。とにかく謎多き人だ。

 沢渡真琴――彼女は水瀬家居候2号(1号は俺)で、俺との関係は……妹?といったところか。本当、わがままなヤツでバカ。最初会ったときは、本当に「このクソガキャ〜!!」と、吼えたくなるぐらいイロイロあった。まあ、今は結構落ち着いたが。容姿はその性格を現したような感じで、非常に子供ポイ。顔も幼ければスタイルも幼い。そして、髪型はツインテール。最初に北川に紹介したときには「ツンデレツインテールロリっ娘キタ―!!」とか、絶叫していた。まあ、とにかく彼女、沢渡真琴はそんなヤツだ。

 2人の姿を見つけ立ち止まる俺。北川もすぐにそれに気づいた。

「あれは、お前の家の……」

「ああ、真琴と秋子さんだ」

「挨拶していくか?」

「していこう」

俺と北川は人ゴミを、かき分けて2人のもとへ駆け寄る。

「真琴、秋子さん、ちわっす」

「あ、どうも水瀬さんのお母さん、真琴ちゃん」

 2人は俺と北川に気づき、振り向く。

「あら、こんにちは。祐一さん、北川さん」

「あ〜、祐一と北川だ」

 秋子さんと真琴のそれぞれ『らしい』第一声。いつも聞いている声だが、学校という空間、しかも、創業祭という舞台ではそれが新鮮に聞こえる。

「今日、2人とも来てたんですね」

「ええ、ここの創立祭は毎年、評判がいいんですよ」

 秋子さんはニッコリッと答えてくる。

「へぇ〜、そうなんですか?」

「はい。地域のTV局が取材に来るぐらいなんです」

「すごいんだな」

 秋子さんに言われて納得する。確かにこの学校の創業祭は力が入っている。そりゃ〜もう、俺が前にいた学校とは桁違いだ。(コスプレがあるぐらいだし……)ここまで力が入っていれば地元のTV局ぐらいなら取材に来てもおかしくない。

「あ、そっか、相沢は今年からの参加だから、知らないのか」

「そうだよ」

 俺が初参加ということに北川は今頃気づく。考えてみれば俺はまだこの学校に来て半年もたっていない。けど、今じゃすっかり馴染んでいる。ここまで違和感無く、馴染んでれば、俺が転入生ということはみんな忘れているのだろう。

 と、俺が「この町に馴染んだんだな〜」と、感慨にふけっているその目の前で、真琴はやたら幸せそうな表情で、その手に持った紙袋を眺めている。考えてみれば、いつもうるさいこいつが静かなのも不自然だ。俺はその原因であろう紙袋を問いただす。

「ところで、真琴」

「ん、何?」

「その手に持っているでかい紙袋はなんだ?」

「あ、これ? これは漫画本よ。秋子さんに買ってもらったの〜」

「ほう」

 なるほど。幸せそうなわけだ。こいつは漫画と肉まんがあれば幸せなヤツだからな。

「いいでしょ〜♪」

「良かったな」

「でも、祐一には見せてあげないんだから。まあ、どうしてもというなら、『真琴様、お願いします』って言えば、考えてあげなくも無いわよ〜」

 相変わらずのクソガキぶりを見せ付けてくれる真琴。『カチン』とくる。が、そこは大人。大人として冷静に、あくまで冷静に聞き流し、それよりも問題のある部分の発言に対応する。

「……真琴」

「何? 見たいの?」

 嬉々とした表情で言ってくる真琴。顔だけ見れば愛らしい。が、今はそんなものは気にならない。俺は数日前に交わした約束を確認する。

「おまえ、こないだ、俺に『もう、無駄遣いはやめます〜。それにおねだりも控えます〜』と、約束したよな?」

「うっ」

 真琴の表情が一気に変わる。どうやら思い出したらしい。実は数日前、真琴がコンビニに行くときに、ついでに俺も雑誌とコーヒーを頼んで、500円、真琴に渡した。が、帰ってきた真琴の手には俺が頼んだ品は無く、変わりに少女漫画雑誌が握られていた。

 真琴曰く「わ、ワザとじゃないのよ〜。祐一から頼まれてたの忘れてて、サイフには500円多く入ってて……と、とにかくそんな感じなのよ〜」だそうだ。まあ、大人の俺は大人として、やさしく許してやったのだ。ええ、許してやりましたよ。(本当は名雪に宥められた。名雪曰く「祐一も大人気ないよ〜。本当に2人とも子供なんだから〜」だそうだ。)ただし、条件として、無駄遣いとおねだり禁止という条件を突きつけたのだ。

 先ほどまでとはうって変わって、青い顔の真琴。俺は容赦なく言葉を続ける。

「で、約束やぶったら、お仕置きするとも言ったよな?」

「そ、それは……」

 俺と真琴の間に緊張が走る。

「覚悟はいいか? 俺は出来てる」

「あう〜」

 後ずさる真琴。にじり寄る俺。そんあ、俺と真琴の間に北川が割って入る。

「まあ、待て。相沢」

「何だ北川? 真琴を庇う気か?」

「庇うというか、なんというか、ここで『お仕置き』は不味いだろ」

「そうか?」

 俺は首を傾げる。俺が真琴にしようとしているお仕置きはそれほどキツイものじゃない。あの、有名な某長寿ハチャメチャ園児アニメで有名な『グリグリ』だ。確かに痛いが、モラルに反するよなものじゃないと思う。

 俺がそんなに酷いかな? とか、疑問に思っていると、北川は真剣な表情で俺を諭してくる。

「そりゃそうさ、『お仕置き』をこんな所でしようなんて、お前は鬼畜か?」

「……おい、ちょっと待て」

 北川の『鬼畜』という単語に俺は嫌な予感を覚える。が、どうやらそれは遅かったらしい。

「待つのはお前だ。相沢。いいか? 『お仕置き』は2人きりのときにやるもんだ。理想的なのは逃げる真琴ちゃんをお前が追いかけて、追いついたら『フフフ。やっと会えたねお姫様。僕の手をこんなに煩わせるなんて……フフッ。これはもうお仕置きだね!?』で、スタートだな」

「おまえは……」

 北川の素晴らしいまでの暴走。もう、ここまで来ると、何を言えばいいのやら見当もつかない。

 途方にくれる俺。そして、先ほどとは別の意味で顔を青ざめる真琴。1人、熱く興奮する北川。収集のつかなくなる空気。多分気のせいだと思うが、廊下にいる生徒や一般客もこちらを静かに凝視している気がする。

 そんな、凍った空気の中、重い音が周囲に響く。

 ドスッ!!

「………っ!?」

 崩れ落ちる北川。その後ろには秋子さん。つまりはそういうことらしい。

「あらあら、北川さん、いけませんよ。こんなところで寝ては風邪を引きますよ?」

 いつものように『ニッコリ』と微笑む秋子さん。心安らぐはずのその笑みも、今は恐ろしい。

「……秋子さん、すみません」

 俺はとりあえず、謝っておくことにする。俺が悪いわけじゃないが、なんとなくそうしておいたほうが長生きできそうな空気だったからだ。しかし、秋子さんはそんな俺にいつものように、

「あら? 何がですか? 祐一さん?」

 と、微笑みかけてくるだけだ。これは非常に怖い。おそらくその意味は『今、ここでは何も無かった。そういうことにしておきなさい。そして、2度と触れないように』という意思表示なのだろう。

 俺は防衛本能に従い、『コクコク』と、それに全力で従う。

 俺の従順な態度が功を成したのか、秋子さんから、危険な空気が消える。そして、いつもの、本来の優しい微笑を浮かべると、片隅で怯えている真琴に優しく語りかける。

「さあ、真琴。私達はそろそろ行きましょう」

「う、うん」

 秋子さんの声を聞いて落ち着きを取り戻したのだろう。今まで青ざめていた真琴の顔に色が戻る。

「もう帰るんですか?」

「ええ。もう一通り見てきましたから」

 時間はまだ3時を回ったところだ。帰るにはまだ少し早い気もする。けど、それも仕方が無いか。今の一件がある以上、長居はし辛い。それに真琴もその小さな身体には大きすぎる紙袋を抱えている。頃合といえば頃合だろう。

「それじゃ、気をつけて」

「はい、それじゃ……」

「バイバイ、祐一」

 俺に背を向け去っていく2人。その姿は本当の親子の様に微笑ましい。聞こえてくる会話も。

「秋子さん、おやつに肉まん買って〜」

「了承」

「わ〜い、やった〜」

「帰りにスーパーに寄りましょう。お米も買わなきゃ……」

 と、本当に親子のそれだ。本当に微笑ましい光景だ。惜しいのは、俺の足元で転がっているアホが「う〜ん」とか、唸っていることだ。これさえなければ完璧なのになぁ〜。

 イロイロと大変なことになったが、とりあえずここに立ち止まっているわけにも行かない。俺はアホを引きずって、移動することにした。

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