「うん。受け取って欲しいものがあるんだ」
私はこの日のために用意した物を圭ちゃんに手渡す。
圭ちゃんは受け取った袋から中身を取り出す。
「マフラーか」
「雛見沢はこれからもっと寒くなるからね。風邪ひかないようにと思って」
圭ちゃんが好きな色の青。その青色の毛糸で私が編んだマフラー。これが私、園崎魅音が圭ちゃんに渡す気持ちだ。最初はバイト代で何か買おうと思ったけど、何を買って良いか結局解からなかった。だから、以前から編んでたこれをプレゼントすることにした。
圭ちゃんは早速それを首に巻いて、
「サンキュ」
と、いつもの笑顔で答えてくれる。いつもなら、これまでなら、友人としての園崎魅音ならここまでだ。けど、今日は違う。今日の私はその先の、1人の女の子としての園崎魅音だ。だから、普段は明るく振舞うその姿の影に隠れていた臆病な本心を、勇気を持って打ち明けなける。
「あ、それと……」
言葉が詰まる。何度もイメージしたその言葉。けど、その先が出ない。
時間だけが過ぎる。嫌だ。今日こそは思いを言葉にしたい。なのに……。
圭ちゃんの顔を見れず、俯く私。そんな私に圭ちゃんは優しい声で呼びかける。
「なあ、魅音……」
「な、何?」
「俺も渡す物があるんだ」
「え?」
私は圭ちゃんが差し出す少し大きめの包みを受け取った。
「開けて良い?」
「ああ。開けてくれ」
「わぁ……」
包みの中から出てきたのは可愛らしい女の子向けのコート。私は思わずそれを抱きしめる。
そんな私に圭ちゃんは、
「俺もこれから寒いかなと思ってな」
なんて少し照れながら言う。
私の中に溢れる感情。その全てを言葉に出来るほど私は器用じゃない。だから、私が言葉に出来る一番簡単な言葉を声にする。
「ありがとう圭ちゃん」
「ああ」
圭ちゃんの優しい顔。多分、いや、間違いなくこれが2人の気持ちなんだ。後はそれを素直に言葉にするだけ。だけなんだけど……。
「………」
「………」
私は『素直な気持ち』を言葉に出来ないでいる。あと少し、あと少しなんだ。
最後の一歩を踏み出せない私。そしてそれは圭ちゃんも同じらしい。だから、
「……何か言いたいことあったんじゃないのか?」
「圭ちゃんこそ……」
「魅音からどうぞ」
「圭ちゃんからどうぞ」
「………」
「………」
と、互いに譲り合ってしまう。こんな時、2人とも素直じゃないなって思う。けど、ここで終わりってわけにもいかない。それは圭ちゃんも同じ。だから圭ちゃんがこんな時お決まりのことを言い出す。
「……んじゃ、同時に言うか」
「うん」
お決まりの言葉。なら私もそれに従わなきゃ。
『せ〜の』
2人の声がはもる。そして、
「俺は魅音が好きだ!!」
「………」
圭ちゃんの声だけがあたりに響く。
「っておい!?」
私の言わなかったことに焦る圭ちゃん。けど、もう遅い。私はもう一番聞きたい言葉を、言って欲しい人から聞けたから。
「本当。嬉しい……」
あははは。なんか私らしくも無い。ただあれだけの、ドラマや漫画で使い古された言葉に涙するなんて。けど、これが本当の気持ちなんだ。なら、それも良いいさ。
1人喜ぶ私。そんな私を少し拗ねた表情で見つめる圭ちゃん。
「魅音はどうなんだよ……」
「はは。もう解かってるでしょ?」
こんだけ喜んでるんだもん。もう答えていると同じだよね。けど、それじゃ納得できない圭ちゃんは食い下がってくる。
「ずるいぞ」
「仕方ないな」
それじゃ、仕方が無いから私が出来る最高の方法で答えてあげるよ。圭ちゃん。
「私も圭ちゃんが好きだよ」
「え……」
不意をつかれて隙だらけの圭ちゃん。その口に自分の口を重ねる。これが私の想い。私の最高の想いを、最高の方法で伝えたんだからこれから大切にしてね。圭ちゃん。
終