「レナ、それの御代貰って良いかな?」

「あ、それなんだけど、この真柴様のフィギュアはついでで、今日は予約していた物を取りに来たの。だから、代金はまとめて払うから、予約していた物を貰っていいかな?」

「あ、あの予約品レナのだったんだ」

 そう言えば今日もおじさんから店番を引き継ぐ時に、『今日は予約の商品を取りに来るお客さんがいるからお願い』と頼まれていたのを思い出した。

 私は奥の倉庫に予約品を取りに行く。そのダンボールの箱は前回の梨花ちゃんの衣装に負けず劣らず大きい。

 その巨大なダンボールを担いでいくと、レナが眼を爛々と輝かせて待っていた。

「それ待ってたんだ〜」

 前の梨花ちゃんの時と同じような展開だ。

「今度はレナか」

「? 今度はって?」

「ああ、前にね梨花ちゃんもウチに商品を予約してたんだよ」

「それって、もしかしてコスプレ衣装じゃない?」

「あれ? レナ知ってたの?」

「うん。だって私が注文したのもコスプレ衣装だもん」

「何!?」

「魅ちゃん、見てみる?」

 レナの手によって開かれるダンボール。その中から姿を現したのはヒラヒララメ入りの2着の衣装。白と赤(?)を基調とした2着の変身ヒロイン物風の衣装だ。確かプリキュアス○シュスターとか言うアニメの衣装だ。

「これは……」

「多分魅ちゃんが考えている通りだよ」

 私が考えている通りだとレナは言う。ならやはりこの衣装は梨花ちゃんの時同様に、圭ちゃんのお父さんの仕事が関わっているのか。まあ、それよりも何よりも衣装が2着って所に嫌な予感がする。1着はレナが着るんだろうけど、もう1着は誰が着るんだろう? もしや、レナは私にこんな衣装を着せる気じゃ……?

 頭によぎった嫌な予感。それを冷静に押さえ込み、私は話を続ける。

「……じゃあ、レナも圭ちゃんのお父さんの仕事の手伝い?」

「うん。でもこの衣装はそれだけのものじゃないんだよ」

「どういうこと?」

「確かにこれは年末のお仕事に着るけど、この衣装の本当の役目はその後」

「後? どうする気? って、あ……」

 『どうする気?』と口にした瞬間、頭に『部活』って単語が浮かぶ。そして、それは当たりだったらしく、レナは口元を『ニヤッ』と歪ませて、私の言葉の先を続ける。

「そう、部活だよ。可愛い衣装でしょ? 私ね皆にこの衣装を着て欲しいんだ。特に圭一君と悟史君が着たら似合うと思わないかな? かな?」

「……圭ちゃんと悟史?」

「うん、圭一君にはこっちの赤い方。悟史君にはこっちの白い方」

「……レナ?」

 それがいつもの罰ゲームの話しなら私も『いいね〜。あの2人を可愛らしくしてあげようじゃないか。おじさんも協力するよ』なんて軽口で答えるところだ。けど、レナの表情を見れば、これがいつもの罰ゲームの話じゃないってことはすぐに解かる。だってレナの瞳には狂気しか浮かんでいないんだもん。

「部活の罰ゲームで着せるんだ。ああ、2人の恥辱に歪む表情が楽しみ」

「ちょ、ちょっと?」

 『恥辱』という言葉に恐怖を感じ、私はレナを制しようとするが、レナの暴走は止まらない。

「出来ることならそれをきっかけに2人は禁断の愛に目覚めて、その場でその衣装のまま、私たちが見ている前でやおって欲しい。ねえ、凄く良いと思わない? 2人とも凄く可愛いと思う!!」

「やおいって……」

 まさかレナに『美少年×美少年=耽美』って趣味があるなんて、しかもその趣味に自分の友人2人を当てはめるなんて思いもしなかった。

「はぅ〜。恥辱で歪み、その果てに禁断の愛に落ちる2人の少年。冬コミでもめったにお眼にかかれないシュチュだよ〜!! 圭一君は攻、悟史君は受け。イケル。イケルヨ!!」

 鼻血を撒き散らし悦の表情のまま狂喜乱舞するレナ。本当に彼女は私の親友の竜宮レナなのか?

「レ、レナ……?」

「はっ!? 魅ちゃん!?」

「あんた……」

「あ、ごめんね。1人でトリップしちゃって。今のことは忘れて」

「え、ええ」

 まあ、それが間違いなくお互いのためだろう。だから私は全力で忘れることにする。が、

「でも、どうしても忘れられなかったら、12月27日までに私に連絡してね。そしたら連れて行ってあげる」

 と、レナはもう1つの可能性も提案してきた。

「……うん」

 私はとりあえず便利な日本語でお茶を濁し、その場を誤魔化す。レナがそれをどう取ったかは解からないが、とりあえずは納得してくれたらしい。

 衣装を嬉しそうに眺めるレナ。その表情は先ほどまでは幾分かましになったが、未だ瞳には危険な色が残っている。今後はこういうことには触れないように注意して生きていこうと心に誓った。それが今日の教訓だ。

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