「ありがとうございました〜」

 私の言葉が最後の客を送り出す。時刻は8時。そして、店内には客は無い。今日はこれでようやく閉店だ。

「あ〜、ちかれた〜」

 本当に疲れた。朝に悟史と会った時には、まさかこれほど忙しくなるとは思いもしなかった。

たまたまなのか、それとも今日が日曜だからか。それは解からない。けど、今日は本当に行きつく暇も無かった。

朝から小、中学生が波状攻撃のように押し寄せてくるのに加え、大きなお兄さん達も大勢押し寄せてきた。中には『あれ? 君、エンジェルモートの娘だよね?』と、詩音と私を勘違いして声を掛けてくる奴もいた。しかも、そういうムカつく奴に限って、買い物もせずに私に長々と話しかけてくるもんだから性質が悪い。

しまいには『これも運命の出会いだよね〜。僕のメイドさんになってよ』と、倫理観のかけらも無いようなふざけたことを言ってくる始末だ。当然、このお客さんには『倫理観』を叩き込んだ後に丁重にお引取りしてもらった。

それにしても酷い話だ。私を捕まえておいて、あのコスプレ、露出、淫乱、変態の詩音と間違えるなんて。いくら顔が同じでも、あれと間違えるなんて本当に失礼な話だ。

「あ〜、思い出したら腹が立つ!!」

「何が腹立つんです?」

「私があんたと……って、詩音!?」

「私と何です?」

「あんた何時来たのよ?」

「今ですよ。お姉。バイトが終わったから、心優しい私が様子を見に来てあげたんじゃないですか」

 気付けばカウンターの前には私と同じ顔の変態。詩音がいつの間にか湧いていた。

「それで私とお姉が何です?」

 知らないというのは幸せなもんだ。気楽に聞いてくる詩音。良し。ここはこの腹立たしさの原因の1つである変態に説教してやろう。

「実はさ。今日、あんたの所の客がこっちに来て、あんたと私を間違えてくれちゃったのよ」

「それ酷いです。可憐で清楚、まさに清純派な私と、ガサツの一言で表現できるお姉を間違えるなんてあんまりです」

「……清純派ね〜」

 こいつ、自分のやってることに自覚が無いのか。それとも私が知らないとでも思って適当言ってくれてるのか。どっちにしてもこの変態に清純派を名乗る資格はない。

「なんです? お姉? その顔は何か言いたげですね?」

私が何を言いたいかまでは感じ取れずとも、私に意見があるってことは解かったらしい。良し良し。ここはその頑張りに免じ、簡潔に教えてやろう。

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