「それで、相談って何?」

「うん……」

 悟史は何やら切り出しにくそうにしている。まあ、無理も無いか。もともと相談事なんてそんなもんだ。それは仕方無い。それより問題はその内容だ。

 正直、私には悟史の相談ごとの内容はとんと予想もつかない。これが以前、去年までなら、まだ、北条家が雛見沢中から村八分にされていた時なら解かる。けど、今はそれも消えた。今では村中がこれまでのことを反省し、北条家を支えようとしている。しているはずだ。けど、まさか、まだ、以前と同じようなことをしている人がいるんだろうか? もしそうなら、それはやめさせなければならない。

「……話というのは詩音のことなんだ」

「へ? 詩音?」

 ありゃ? 思いもしない名前が出てきたな。あいつなんかしたのかな?

「詩音の奴がどうかしたの?」

「実は僕がリハビリを受けている時から、いや、その前、僕が眼を覚ます前から、詩音は週末に看病に来てくれてたんだ」

「そうだったの……」

 一途な想い。本当にあの娘らしいと思う。

「そのことには凄く感謝してるんだ。けど、その時から少し困ってることがあって……」

「困ってること?」

「うん……詩音は看病してくれてた時からその……少し、服装が……」

「服装が?」

「その変なんだ。メイド服とか、スクール水着だとか、エンジェルモートの制服とか、体育着とか……なんか、そのそんなんばっかりなんだ」

「そ、それは……」

 あ〜、頭痛。詩音の奴、そこまで露骨に誘惑してるとなんて知らなかった。というか、そこまでいけば痴女って奴なんじゃないかと思う。双子で同じ顔してるんだから、勘弁して欲しい。

 我が妹の痴態に頭を押さえる私。それに構わず悟史は続ける。

「最初は部活で負けてそんな格好で着てるのかななんて思ってたけど、どうも違うみたいで……。今も家に遊びに来るときは良くそんな格好に着替えるんだ。まあ、沙都子や梨花ちゃん、羽入ちゃんが居る時は普通の格好なんだけど……」

「………」

「最近はなんかたまに詩音が倒れそうになることがあってね。それを抱きとめると、そのまま……その、む、胸を押し当ててきて……その僕が胸、当たってるよって言うと、『当ててるのよ』なんて言うんだ」

「……あいつ」

 あいつ、悟史の家でもんなことやってたのか。さっきは『痴女なんじゃ?』って思ったけど今ので完全に『痴女認定』だ。つーか、『当ててるのよ』は無いだろ。自分の妹がそこまで取り返しのつかないことになってるなんて思いもしなかった。

「ねえ、魅音。これって僕からかうわれてるのかな? 正直、僕も男だからこういうのはちょっと……」

 顔を赤らめる悟史。まあ、恥ずかしいのは解かる。そして、詩音のやってることがおかしいのも解かる。どっちもどっちだ。けど、それ以上にこいつは鈍い。鈍すぎる。こりゃあ、詩音がクリスマスに賭けるわけだ。

 そんな2人の関係に私が口を挟むべきじゃないだろう。だから、私は悟史に少しアドバイスをしてやる。

「ま、気にするな。詩音はあんたをからかってるわけじゃないよ」

「そうなの?」

「そうさ。ただ少し伝えたいことがあるだけさ」

「伝えたいこと? それはどういうこと?」

「それは本人から聞くか、自分で気付きな」

「むぅ」

「さ、オジサンは仕事があるから話はこれまで。帰った帰った」

「うん。解かったよ。ありがとう魅音」

 悟史はいつもの少し頼りない笑みを浮かべ、店を出ていく。まあ、そんな頼りなさが彼の魅力で、そんな所を詩音が好きだと言うのだからお似合いって言えばお似合いだろう。ただ、詩音の行き過ぎた行動には今度釘をさしておくか。 

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