「さ、今日も一日頑張りますか」

 昨日に引き続き、今日もバイトだ。土日連日ってのは正直、嫌なんだけど、クリスマスの計画のことを考えれば、そうも言ってられない。勝利のために今は耐える時なのだ。

 ちなみにここの店長である叔父さんは連日で釣りに行った。日曜日ってどんな店でも稼ぎ時だと思うんだけど、まあ、そこは言うまい。そのおかげで私に仕事が回ってきているのだから。

 そんなわけでバイト開始。店のシャッターとブライドを開けて、店内の灯りをつける。棚の整理と品出しは昨日の内に済ませている。後は玄関を掃くだけだ。

 今日は久々に天気が良い。おかげでそれほど寒くも無い。うん、今日は朝から清々しい。

「ふ〜ん、ふ〜ん♪」

 なんかこんな日はついつい鼻歌が出てしまう。ま、知り合いに見られるわけじゃないからいいけど。

 ザッ。

 背後に人の気配を感じる。どうやら今日のお客様第1号のようだ。さ、気持ちよく挨拶をしよう。

「いらっしゃい……って、悟史!?」

「やあ、魅音」

 『やあ、魅音』って軽く、いつもどおりの少しボーっとした感じで挨拶してきたのは、1週間前に退院したばかりの悟史だ。

「あ、あんたいつから……」

 頼む。さっきの鼻歌は見ていないでくれ〜。

「今来たところだよ。それにしても朝から機嫌が良いみたいだね」

「がぁ〜!!」

「ん? どうしたの魅音?」

 どうしたのじゃない〜!! こいつはしっかりと私が鼻歌混じりに掃除してたの見てやがった〜。あ〜、知り合いに見られるんなんて、しかもよりにもよって相手は悟史。こいつは悪気無く、ポロッと口を滑らすタイプだ。最悪だ〜。

 くっ、嘆いてもしかたがないか。ここは出来る限りの隠ぺい工作をしておくとしよう。

「……悟史」

「何?」

「今見たことは誰にも言わないでね」

「今見たことって?」

 あ〜、こいつ解かってない。となると私は説明しなきゃならないのか。くっ……。自分の恥を説明することになるなんて、この園崎魅音、一生の恥。しかし、今は耐えなければ。

 私は傷つくプライドを必死に押さえ、悟史に優しく説明する。

「……私が鼻歌混じりに掃除してたこと」

「なんで?」

「私が恥ずかしいから」

「別に変じゃないと思うけど?」

「いいから。お願いね?」

「むぅ。解かったよ」

「……良し!!」

 とりあえず釘は刺しておいた。まあ、それでも何らかの拍子で悟史がポロッと口を滑らせる可能性はある。けど、それはどうにも出来ない。私に出来るのは、そうなった時、悟史に部活特製の罰ゲームをフルコースで味あわせることだけだ。

 さて、『鼻歌』の件はここまでにしておいて、とっとと話は変えてしまおう。何時までも続けているとボロが出そうだし。

「ところで、今日はどうしたの? 何か買い物?」

「昨日、沙都子から魅音がここでバイトしてるって聞いたから……」

「様子を見に来たの?」

「いや、少し相談したいことがあるんだ。魅音にしか話せないことで……」

「え?」

 相談。私、園崎魅音に相談。それは特別な意味を持つ。園崎家はこの雛見沢の御三家(園崎、古手、公由)の内でも中心となる家だ。そして、私、園崎魅音はその次期頭首。平たく言えば雛見沢ではTOPクラスの発言力と権限を持つ。まあ、私自体はそんなのは出来るだけ使いたくないし、それを傘に威張り散らすようなこともしたくない。けど、必要とあらば、やはりその『力』を使わざるを得ない時もある。

「……とりあえず、ここじゃ何だから中に入ろうか」

「うん」

 私は店の中で話を聞くことにする。

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