数分後。
私は自分が運んできた荷物の大きさに正直、驚いている。なんというかその大きなダンボールは小さな子供。それこそ梨花ちゃんぐらいの大きさの子だったらきれいに入ってしまう大きさだ。もしかしたらこれは違う人のかななんて思いもしたけど、ダンボールには『古手梨花様』と、書かれた張り紙が張ってある。間違いではないらしい。
「梨花ちゃん、これ何?」
「にぱ〜。秘密です♪」
う〜ん。気になる。梨花ちゃんが『にぱ〜。秘密です♪』なんて可愛らしく言うと余計に気になる。
「魅ぃ、気になるですか?」
私の顔に『気になる』ってのが思いっきり出てたんだらしい。モロバレだ。だから、私も正直に答える。
「そりゃ、これだけ大きい箱だとね。しかもダンボールだし」
「それじゃ、仕方が無いです。皆に内緒にするなら中を見せてあげるです」
「本当? いいの?」
「はいです。でも皆には内緒ですよ?」
「うん。解かった」
私がそう答えると、梨花ちゃんはカッター(カウンターにあったヤツ)でガムテープの封を解く。そして開かれる箱。その中から出てきたのは、
「これは……?」
中に入っていたのは衣装一式。そう呼ばざるを得ない物だった。宝石のレプリカとかで装飾されたステッキに、ピンクと白のヒラヒラしたこれまたあっちこっちに装飾が施してあるドレス。そして、子供用のはずなのに、やたらと出来のいいティアラ。その他小物。というのが3着ほど中に入っていた。
「驚いたですか? 魅ぃ?」
「梨花ちゃん、これは一体……?」
「これはですね、今度の年末のイベントで着る衣装なのです」
「年末のイベント?」
「はいです。圭一のおじさんのお仕事のお手伝いです。東京のビッグサイトという場所であるイベントです」
「……それでこんなの着るの?」
「はいです。これを着てお客さんに『新刊お願いします。にぱ〜』って宣伝するです」
「………」
なんだろう。新刊とかイベントとか衣装とかの単語が、何故か不穏な空気を生み出してる。一体、どんなイベントなんだろう。
「詳しく知りたいですか?」
「へ? あ、いや、良いよ。私は良い」
気にはなったけど、深入りすると何かとんでもない事に、(それも人生を左右するぐらいの)なりそうな気がするのでやめておく。
「……残念です。魅ぃならきっと人気のコスプレイヤーに……」
「へ? なんて?」
「あ、何でもないです。少し残念と思っただけです。けど、それで良いかも知れないです。あの世界は戦場。生半可な気持ちでは……」
「り、梨花ちゃん?」
「……何でもないです。それでは荷物は持っていくです。早く持って帰って衣装合わせしないとです。ああ、イベントが待ちどうしいわ。この衣装を着て会場に出れば、全ての男達は私の虜。ゾクゾクするわ」
「……梨花ちゃん?」
「はっ!? いや、何でもないです。にぱ〜」
「………」
なんか今の梨花ちゃんは私の知らない別人のような気がした。けど、これも早く忘れた方が良いんだろうな。
「それじゃ、魅ぃ。僕は失礼するです。外に圭一のおじさんを待たせているので」
「あ、それじゃ、荷物外まで運ぶよ……」
「ありがとうです。にぱ〜」
これからは梨花ちゃんに対する認識を変えよう。私はそう心に強く誓った。