「羽入、どうかした?」
「魅音、そこを見せて欲しいです」
「へ?」
そこと言われて私は自分が整理(フリだが)していた棚を確認する。そこに並べてあったのは、蛇、トカゲ、蜘蛛のゴム人形と爆竹、カンシャク玉等の小学生低学年の男子の御用達イタズラグッズだ。
「羽入、あんたこんなの買うの?」
「はい、その辺のが使えそう……じゃなくて、おもしろそうです〜」
「羽入、この辺のを何に使うの?」
「それは梨花を……あうあう〜」
「梨花ちゃん?」
ここで梨花ちゃんの名前が出てくるとは思わなかったな。これは是非話を聞かないと。
「な、何でもないです。あうあう〜」
「駄目。正直におじさんに話しなさい」
「あうあう〜。皆には内緒ですよ?」
「解かった解かった」
「実は梨花に復讐をしようと思っているです〜」
「復讐?」
なんか穏やかじゃない単語が出てきたな。ケンカしたにしろちょっと話がおかしい。
「復讐って……何か大げさじゃない?」
「あうあう〜。大げさじゃないです〜。梨花は僕の嫌がることをしたです〜」
「梨花ちゃん何したの?」
「昨日の部活のカードゲームの時に休憩時間に梨花がジュースを入れてきたです。けど、それには僕が苦手なものが混ざってたです〜」
あ、なるほど。部活の時に何か盛られたのか。確かに我が部活は勝つためなら何でもありだ。まあ、もちろん限度はあるけど。んで、梨花ちゃんは、いや、部活メンバーはその限度を破るようなことはしないと思うけどな。一応、聞いてみるか。
「何が混ざってたの?」
「ワインです〜」
「ワインってお酒の?」
「はいです〜。梨花はフルーツワインって言ってました〜」
「僕はお酒に弱いんです〜。梨花はそれを利用して昨日のカードゲームで1位になってずるいです〜。途中までは僕が1位だったのに〜。あうあう〜」
「あ、そういうことか……」
「あうあう」と可愛らしく怒る羽入。う〜む。梨花ちゃんも恐ろしい手を使うもんだ。というか、どこでそんなものを手に入れたんだろう? お店で買おうにも売ってもらえない気もするけど。
「で、ここに売ってある蛇とかのおもちゃでやり返そうっての?」
「はいです〜。今度の部活の時にそれを使って梨花に勝です〜」
「う〜ん」
多分、この羽入の行動には沙都子の影響があるんだと思う。沙都子はよくトラップを使って不利な状況を覆そうとするからな。けど、正直な話、梨花ちゃんがこの手のおもちゃぐらいで驚くとは思えない。
「梨花とは友達です〜。けど、部活の勝負は話は別です〜。だから月曜日には僕が勝です〜」
燃える羽入。ここは素直に応援しておく。
「がんばれ〜」
「よし!! やる気が出たです。魅音、これとこれとこれください」
羽入はクモ、ヘビ、トカゲのゴム人形をそれぞれ一つずつ手に取る。
「はい、300円ね」
私は代金を受け取ると、それらの人形を袋に入れて羽入に手渡す。
「それじゃ、お仕事頑張ってです〜」
「うん、羽入も気をつけて帰りなよ」
紙袋を受け取った羽入はそれを抱えると、意気揚々と、パタパタと走り去っていった。月曜日は私も部活に参加しようかな。ことの結末も見てみたいし。と、お客も帰ったところで私は退屈な店番に戻ることにする。