第1話 羽入編
「さ、がんばるぞ〜」
自室で決意してから約2時間後。私はもうバイトに入っていた。バイト先は興宮の商店街のおもちゃ屋。私のおじさんがやってる店だ。バイトをしたいって言ったら二つ返事でOKを貰った。
なんでもこの時期、おじさんは趣味の釣りの方に忙しいらしく、タイミングがちょうど良かったらしい。仕事より趣味優先ってのはいかがかと思うが、利害が一致してるのであえてそこには突っ込まない。
1時間後。
「あ〜、暇」
本当に暇だ。土曜の昼。小学生とけっこう来るのかなと思ったけど、実際はご覧の通り店内に客の姿は無い。少し前に小学生達が数人で遊戯○カードを買いに来たっきり、客足はぷっつりと切れている。
「もしかして、この店流行ってないのかな?」
眠くなる。このままカウンターで寝てしまおうか。とか、誘惑と戦っていると、客の来店を知らせるチャイムが鳴る。
店に入ってきた小柄な客。その姿は思いっきり見覚えがある。フワフワした紫色の髪。そして、頭の両脇に生えた(?)2本の角。そんなのこの辺では1人しかいない。羽生だ。
向こうも私に気付き、こっちにパタパタと歩いてくる。
「あぅ? 魅音?」
「羽入じゃない。いらっしゃい」
「魅音、何してるです?」
「バイト。ここで小遣い稼ぎしてるんだ」
「そうだったですか」
「羽入は何か探し物?」
「何か使えそうな……じゃ無かった面白そうなものが無いか探しに来たです」
「え? それはどういう……」
「あ、これは面白そうです」
「………」
なんかあからさまに誤魔化された。この娘は一体何を探しに来たんだろう。気になる。けど、それと同時に『触らぬ神に祟り無し』って単語が頭に浮かんできた。
「羽入、それじゃおじさんはそこら辺の棚の整理をしてるから、何あったら呼んでね」
「解かったです〜」
可愛らしい返事。けど、油断は出来ない。振り返るほんの一瞬、羽入の顔に浮かんでいた笑み。それは明らかに部活の時の、勝負の時の笑みだった。ここは少し様子を見させてもらおう。
店内を鼻歌混じりに回る羽入。今の所不信な所はない。ゲームにぬいぐるみ、人形等、彼女が興味を持ちそうな物を順に見て周ってる。特に不信な点は無い。やがて羽入は店内を一周する。
(さっきのは気のせい?)
眼に留まるものは無かったか。とか、思ってたら羽入は何故か向きを変え、私の方に歩いてくる。