昭和58年11月某日
今日は土曜日。学校も昼でお終い。久々に部活に参加しようと思ってたのに、私、園崎魅音は急にこんな所に呼び出された。
入江診療所。この雛見沢村でたった1つの医療機関。田舎の診療所のクセにやたらと立派な診療所。その理由はこの前、あの事件、あの雛見沢の存亡かけたあの大事件の時に解き明かされた。
田舎の診療所。それは仮の姿。その真の姿は国の研究機関。え? 何を研究しているのかって? それはこの雛見沢村の風土病。通称、『雛見沢症候群』。どんな病気かっていうと……。う〜ん。おじさんは専門家じゃないからね〜。あんまり詳しくは知らない。ただそんなおじさんが知っているのは、この病気は一度発病すると、だんだん人を信じられなくなって、疑心暗鬼になっちゃうってこと。
怖い病気でしょ? 本当に怖いよ。家族も友達も、好きな人も信じられなくなる。嫌な病気。この怖い病気が原因でありもしない『祟り』が4年間も続いた。そして、この村の人間は皆感染していた。本当に怖い話しだよ。けど、それもちょっと前までの話。
少し前、秋に入る前ぐらいかな。ここの診療所の所長、入江京介(私は監督って呼んでる。理由は少年野球チーム監督をしてるから)が長年の研究の末にこの『雛見沢症候群』の治療薬を開発した。そして、その薬はすぐに量産されて、村人全員に“インフルエンザの予防薬”ってことで投与された。
当然、おじさんも受けたよ。そして、おじさんの大事な仲間たちも。この時、1人だけ皆とは違う薬を、それもちょっと大きめの注射を打たれて沙都子(おじさんの大事な仲間の1人さ)が泣いてたっけ。あの後、羽入(この娘もおじさんの大事な仲間だ)に慰められてたな。なんか、少し前の話なのに凄く懐かしい。
と、人が感慨にふけってる所に聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「あ、お姉。もう来てたんですか?」
「詩音。あんたね、人呼び出しといて、遅れるってどういうことよ」
「お姉が早すぎるんですよ。大体、集合は2時ですよ? あと10分もあるじゃないですか」
「普通、呼び出した張本人は早めに来て皆を待っとくもんじゃない?」
「だから早めに来たんです。私より早く来ているお姉が早すぎるんですよ」
「むっ」
相変わらず口ではこいつには敵わないな〜。本当にこいつと私は同じ遺伝子で出来てるのかと、たまに疑いたくもなる。
この口の減らないのの名前は園崎詩音。私の双子の妹だ。本当は私が妹のはずなんだけど、この辺は少しややこしいし、今更口にすべきことじゃない。だから、これ以上説明はしない。
どんなヤツかと言うと、一言で言えば猫かぶりの性悪。普段は猫を被ってるけどその本性は本当に根性曲がってて始末におえない。その仕草に騙されている人も多いと思う。
ちなみに今日、私を、そして部活メンバーをここに呼び出したのはこいつだ。
「……お姉、今何か失礼なこと考えてませんでした?」
「……別に」
加えてこのとおり勘も鋭い。
そんな姉妹のコミュニケーションを変に曲解した言葉が割り込んでくる。
「あら、御二人とも相変わらず仲が宜しいですわね」
「2人とも仲良しです」
「仲が良いのは良いことです」
声の方に振り向けば、そこには笑顔でこっちを眺める我が部活のちびっ子3人組み。
変な敬語? 丁寧語? とにかくそんな話し方をするのが北条沙都子。生意気で負けず嫌い。けど、そこが幼くて可愛いヤツだ。ちなみに見た目はただの子供だけど、プロも舌を巻くほどのトラップの名手でもある。この前の事件ではその腕前を存分に見せてくれた。
その沙都子の隣の少女が古手梨花。この雛見沢の御三家(園崎、古手、公由)の内の1つ古手家の長女で古手神社の巫女。その小柄で可愛らしい姿は村のお年寄りのマスコットになっている。
そんな2人の後ろに立っているのが羽入。苗字は知らない。なんか梨花ちゃんの遠縁の親戚らしい。今年の夏、丁度、あの事件の頃に雛見沢に引っ越してきた。よく言えばおとなしい性格。悪く言えば気が弱い。けれど、必要な時はしっかりと自分の意見を言える。そんな娘だ。ちなみにチャームポイントはその頭に着けた大きな角。なんか可愛らしい。
「あのねぇ〜、あんた達、どう見たら私とこいつが仲良く見えるのよ〜?」
「さっきまでの姿を見ればですわ」
「ボクもそう思うです〜」
「あら〜、私と仲良くしたかったんですかぁ〜? それならそうともっと早く言ってくれれば良かったのに〜」
はっきりと言い切る沙都子。それに同調する羽入。そしてそれを悪用するのが詩音。本当、詩音はひねくれてる。
「詩音、あんたねぇ〜」
「魅〜。仲良しは良いことです。にぱ〜」
「梨花ちゃんまで……」
こうなるともうケンカの気分じゃない。梨花ちゃんのあの『にぱ〜』には本当に敵わないな〜。
そんなやりとりをしている私達の方に近づいてくる1組の男女の姿。ようやく残りのメンバーの到着だ。
「お、皆そろってるな」
「レナ達が最後みたいだね」
1組の少年と少女。圭ちゃんとレナだ。
圭ちゃん―前原圭一は今年の春、雛見沢に引っ越してきた男の子だ。前は都会の方に住んでたらしい。その辺はよく知らない。とにかく圭ちゃんは面白い男だ。運動神経も悪く無いし、頭も良い。けど、それよりも何よりもとにかく口が上手い。その口の上手さで不可能を可能にする男だ。
そして、そんな圭ちゃんの隣にいるのが、私の親友の竜宮レナ。本名は竜宮礼奈。けど、私達仲間はレナって呼ぶ。これには理由があるけど、これも長いからそれはまた今度。レナは見た目は少しオットリした感じのお嬢さん。そして、普段はみたまんまの性格。けど、一度、スイッチが入ると、とんでもない動きをする。そのスイッチと言うのが、
「はぅ、沙都子ちゃんも、梨花ちゃんも、羽入ちゃんもおNEWの冬のコート♪ 可愛い〜、お持ち帰り〜♪」
「きゃ!!」
「みぃ〜」
「あぅ〜」
と、可愛いものを見つけたときだ。この時のレナに変に手を出すと、
「おい、レナ落ちつ……」
スパンッ!!
「ゴハッ!?」
と、今の圭ちゃんみたいなことになる。
「さて、皆そろいましたね。それじゃ、早速、中に入りましょうか」
「へ? ああ、そうだね」
私達は詩音に連れられて、中に診療所の中に入る。そう言えば集まったのは良いけど、一体何をするんだろう? 詩音は皆そろってから説明するって言ってたけど。
「お姉〜、何してるんです?」
「あ、ゴメンすぐ行く」
私も少し遅れて皆の後に続いていく。