悟史が私達の前に帰ってきて1週間たった。あれからすぐにみんなで北条家の掃除、そしてその日内に悟史、沙都子、梨花ちゃん、羽入はすぐに北条家に移った。子供だけの生活ということで、村中が悟史たちを手助けしてくれている。これには悟史も沙都子もかなり驚いてた。まあ、そりゃそうか。あのウチの婆っちが『これまですまんかったのう。これからは頼ってくれ』なんて頭を下げたんだから。悟史、沙都子じゃなくても驚きだ。これには私も詩音も、そして母さんも驚いてた。

 今じゃ北条家は完全に平和を取り戻している。もう、以前の暗い面影は無い。本当に嬉しい。あ〜、ちなみに経済的な部分は入江診療所から(というよりは国の機関から)かなり援助が合ったらしい。監督が掛け合ってくれたんだろう。それともう1つの不安要素である叔父の方は、タイミングよくと言っては何だが数日前に事故で死んだらしい。なんでも原付でカーブを曲がりきれずに50メートル下の崖に転落したとか。まあ、哀れといえば哀れか。

 と、私はここまで書いて、ペンを置く。とりあえずここ数日の出来事はこんなもんか。読み返してみると本当に激動の一週間だったと思う。と、その時、不意に背後に気配を感じる。

「お姉、日記続いてますね〜」

「わっ!?」

 慌てて日記帳を閉じる。まったく人の日記を覗き見するなんて、こいつは!!

「詩音!? どっから湧いた!?」

「酷いですね〜。今日は玄関から堂々と入ってきましたよ」

「あんたねぇ〜」

「あ、安心してください。日記の中身は覗き見してませんから」

「ふん、どうだか」

 怪しいもんだ。こいつのことだから『覗き見なんてしてませんよ。堂々と読んでます』とか、言いかねない。

「あ、酷い〜。傷つくな〜。折角今日は良い話を持って来たのになぁ〜」

「……良い話? 何よそれ?」

 しまった。こいつ今日は何か話を持ってきたのか。となるとこれは不味い。このままだとそれを盾に何を要求してくるかわからない。

「あれ〜? 人に物を尋ねる態度じゃありませんね〜?」

「ぐっ」

 案の定か。頭を下げるぐらいじゃ済みそうも無いな。と、思ったら詩音のヤツ急に「ま、今日は特別許して上げます」なんて熱でもあるんじゃないかと思うようなこと言い出した。

「で、良い話ってなんなの?」

「実はですね〜。来月の24日にクリスマスパーティーをすることにしました」

「え、クリスマスパーティー?」

「そ、今度圭ちゃんの家でやることが決定してます」

「へぇ〜、いいじゃない」

 おお、詩音が持ってきた話なのに本当に良い話だ。クリスマスパーティー。うん、最近、受験に向けてのお勉強であまり部活にも参加できてない。良い息抜きになりそうだ。

「それでですね、プレゼントの交換会をやろうと思うんです」

「いいねぇ〜。クリスマスらしくて凄く良い。おじさんそういうの好きだなぁ〜」

 あ〜、早くクリスマスにならないかな〜。聞いた今から楽しみでしかたがない。

「そこでです。お姉」

「ん? 何?」

 あれ? なんかさっきまでと詩音の様子っていうか、表情が一変したんだけど。詩音はなんというのか、ああ、多分あれだ。これが何かを決意した表情ってヤツなんだろう。

 んで、詩音はその表情のまま続ける。

「ここでグッとポイントを稼ぎたい……いや、ここで決着をつけたいとは思いません?」

「ブッ!! あんた何を……」

 決着って……こいつまさか、悟史とのことを?

 私が呆然としていると、当の詩音は自分のことではなく私のことを持ち出してきた。

「あれ? お姉は良いんですか? 折角のクリスマスですよ? クリスマスほどのチャンスは他にないと思いますけど?」

「そ、それは……」

 あ〜。それは確かによくTVとか漫画でやってる。けど、私は……。

「まあ、少なくとも私はここで確実に決めさせてもらいます」

「あ、あんた……」

あ〜、悟史が帰ってきたもんだから、盛り上がってるな〜。本気で今度のクリスマスに決着をつける気なんだ。

なんて他人事のように考えているのを、まるで見透かしたかのように詩音は私の事を再度持ち出してくる。

「お姉もここでしっかりとしたがいいと思いますよ? 圭ちゃんアレでモテルから」

「なっ?! なっ?!」

「レナさんも気があるみたいだし、沙都子も口には出さないけど……。もしかすると梨花ちゃまも……」

「え?! え?!?!」

 いや、ちょっと待て!! レナはともかく沙都子!? さらには梨花ちゃん!? いやちょっ……。べ、別に私は圭ちゃんのことを……。いや、しかし?!?!?!?!?!

 うわぁ。頭の中がゴッチャゴチャだ。考えがまとまらない。

 混乱する私。そんな私に背を向け、詩音は部屋を出て行こうとする。

「まあ、お姉にはお姉やり方があるなら良いですけどね〜」

 ガシッ。

 詩音の肩を掴む。もう、ここまできたら引き返せない。毒を食らわば皿までだ。

「待って詩音」

「何です? お姉?」

「ポイントって、あんたはどうする気なの?」

「仕方が無いですね〜。ここは他ならぬお姉ですから教えてあげます。私はプレゼントを使おうと思ってます」

 プレゼントで気を引く。それは誰でも考えることだ。けど、プレゼントは交換会をするって話だ。それじゃ、誰に誰の物が渡るかわからない。

「プレゼント? でもそれは交換会で交換するんじゃ……」

「ええ。勿論です。けど、この交換会は普通とは違います」

「? どういうこと?」

「交換会では参加者全員が全員の分を持ち寄り、それぞれに用意したプレゼント同士を交換するようにしています」

「ああ、なるほど……。確かにそれなら確実に渡したい相手に渡せるわけだ」

「そこで私の場合は悟史君に渡すプレゼントに目立つようにメッセージカードをつけます」

「そのメッセージカードで告白するの?」

「何言ってるんですか。呼び出すに決まってるでしょう?」

「詩音!?」

 こいつ、本当に何を考えてるんだ!? というか、何故、そこまでの行動力があるんだ!?

「当たり前でしょう? 他に何があるんです」

「うっ……」

 なんか真顔で言われると、本気で私が間違っている気がしてきた。

 いや本気でどうしよう。告白……する? 私が? でも……。けど、詩音が言うとおりクリスマスはそういう日でもある。レナや沙都子がもし本当に圭ちゃんのことを好きなら……。

 ああ、さっきよりも頭がこんがらがってきた。本当どうしよう。

 傍から見ても私の頭がオーバーヒートしているのがわかるんだろう。詩音は「やれやれ、仕方が無いですね〜」なんて言いながら楽しそうな顔をしている。そして、十分に私の状況を楽しんだ後、詩音は私に指を3本立てて見せる。

「ここは恋愛が苦手そうなお姉に私から3つのアドバイスを」

「……何?」

「プレゼントは相手が欲しがりそうな物を用意する」

 詩音の指が一本折れる。

「まあ、そりゃ……」

 それは言われるまでも無い。と、言っても圭ちゃんが欲しがりそうな物が思いつかない。後でそれとなく聞きだしてみよう。

「と、もう1つ雰囲気を盛り上げられそうなものを用意しておく」

 ここで2本目が折れる。

「なるほど」

 プレゼントを2つ用意しておくということか。圭ちゃんが欲しがりそうなものとは別に、場の雰囲気を盛り上げそうなものを用意する。うん、そういうのは漫画とかTVを見ればどうにかなりそう。

 基本的なことだけど、場を作るというのは大事なことだ。ここは素直に詩音に感謝しておこう。

 そして最後のアドバイス。

「あと、圭ちゃんから告白があるかもなんて期待しない。これが最重要!! こういうことは言いたくないですけど、悟史君にしろ圭ちゃんにしろそういうことは期待できません」

 最後の指が折れる。

「確かに……」

 うん。それは確かにそうだ。圭ちゃんにしろ悟史にしろ自分から告白ってのは想像できない。

「さて、話も済んだし。私は行きますね。これからエンジェルモートでバイトですから。クリスマスプレゼント代をしっかり稼いできます」

 スタスタと部屋を出て行く詩音。そんな詩音のバイト先エンジェルモートはあの恥ずかしい制服(レナ曰く可愛い)が売りの喫茶店。だからこそ時給は良い。詩音ならかなり高価なプレゼントを買えるだろう。

「プレゼントか……」

 私も用意なければ。確かに詩音の言うとおり、クリスマスはチャンス。ここは決着をつける。それにはまず先立つもが必要。

「私もバイトしよう。そして……」

 私は聖夜に向けて1人決意する。

ひぐらしがなく頃に 金稼ぎ編

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