ここに来るのは久しぶりだ。あの時以来になる。過ごした期間は短いとは言え、イロイロとがあった場所だ。懐かしいとまでは言わなくとも久々だとは感じる。
 そんなことを考えながら、歩いていればもうドアの向こうは目的地だ。さて、我がマスターとの久々の対面といくか。
 コンコンッ。
 軽く2度ノックする。すると、一瞬間を空けて、
 「どうぞ」
 そう答えるこの洋館の主、彼女の声が聞こえてくる。
 私は言われるままノブを回す。アンティーク調の部屋。そのベッドの上に気だるそうに腰を下ろしている少女が1人。
 「気位が高く、完璧主義者。いや、自分ではそうあろうとし、他者からはそう思われていると言うべきだろう。そして、そのわりには肝心な時にミスをしたり、感情的な行動をしたり、人をおもちゃにしたりする快楽主義者であるこの少女が私のマスターだ」
「……あんた。モノローグが声に出てるわよ?」
 少女は笑顔でそう返してくる。まだ余裕があるように振舞いたいのだろうが、もう既に声にも表情にもそれはない。相変わらず、彼女は面白い。
 私の皮肉に余裕で返そうと背伸びする彼女。本当に可愛いらしいものだ。なので一応、詫びておく。
「これは失礼。久々のためか、いささか心に隙が生じているらしい。すまなかった」「……相変わらず、良く回る口ね」
「お褒めに預かり実に光栄だ」
「なら、ご褒美をあげなきゃね」
「……何をする気だ?」
「そうね。どうしようかしら。最後の令呪だし、大事に使わないとね」
 彼女は言いながら右手の甲をこちらに向ける。そこには最後の令呪(我々サーバントにマスターが強制的に命令するための『力』を持った紋章)が残っている。どうやらここが潮時らしい。可愛らしいマスターで遊ぶのはここまでだ。
「……悪かった」
「あら、ずいぶん素直ね?」
「君なら感情に任せて、それを実行することもありえるからな」
「さすがにしないわよ。最後の令呪だし」
「そうか。まあ、君がそう言うのならそうなんだろう」
「………」
「………」
 僅かな沈黙。そして、
「クスッ」
「フッ……」
 互いに笑みを浮かべる。これで私達風の挨拶は終わりだ。
「相変わらずね。アーチャー」
「君もな。凛」
 こうして私、アーチャーはマスターである遠坂凛と再会した。

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