「はぁ〜。考えるまでも無いだろう。セイバーはお前のことを嫌っている。それにセイバーには衛宮士郎がいる。他に理由がいるか?」
「それぐらいのことは解っている!! しかし、無理ということはあるまい!! 例えば私があの雑種を殺せば……」
 物騒なことを言い出す英雄王。『好きな人には恋人がいる。なら、その恋人を殺せばいい』というのはストカーの理屈だ。次はこれを説明しなければならないらしい。ああ、面倒だ。
「仮にそうなったとしたら、セイバーに惹かれるどころか、貴様セイバーに命を狙われるぞ」
「何故!?」
「セイバーは衛宮士郎のサーバントだ。加えて2人の間にはサーバントとマスター以上の感情がある。そんな衛宮士郎を殺せばセイバーが怒り狂うのは火を見るより明らかだ。下手をすればセイバーを敵に回すどころか、私とライダーとバーサーカーとそのマスター達……もしかするとランサーと貴様のマスターも貴様の敵になるやも知れぬな」
「ば、馬鹿な!? 何故、そこまで一方的な展開になる!?」
 いや、馬鹿なも何もこれほどわかりやすい展開はないと思うのだが。
「あの朴念仁はああ見えて、周囲の女性に好かれている。セイバーは言うまでも無く、私、ライダー、バーサーカーのマスターはヤツの味方だ。そしておそらく貴様とランサーのマスター、カレン・オルテンシアもそれなりにヤツのことを気に入っているだろう」
 そして、我々はサーバントだ。マスターの意思には従う。本当に解りやすい理屈だ。
「それはつまり『雑種>我』ということか?」
「そういうことだ」
 ようやく解ってくれたらしい。良し。後は『諦める』を選択するだけだぞ。英雄王。
「そんな……」
 がくりと、崩れ落ちる英雄王。まあ、気づいていなかっただけにショックも大きかったのだろう。ここは優しく慰めてやるか。
「ギルガメッシュ。女はセイバーだけではない。その内、きっとセイバーより良い女が現れる。その日を待て」
「………」
 ギルガメッシュは膝をついたまま答えてこない。この後のこいつの考え次第で、こいつが真人間になるかストカーになるか決まる。ここは慎重に……。
 私が慎重にことを運ぼうしているその時、今一番、現れて欲しくない人物が顔を出してきた。
「何やってるんだ? アーチャー?」
 脳天気なことを言ってきたのは私が一番嫌いな人間であり、そしてかつ今一番この場に来て欲しくない人間、衛宮士郎だ。
「こんな時に限って……」
 頭を押さえる。本当にこんな時ほど『ラックE』な自分が憎い。ああ、冷静に考えれば衛宮士郎も『ラックE』か。2人そろってトラブルに好かれるものだ。嫌になる。
 私が己の不幸を呪っている仕草が気に食わなかったのか、衛宮士郎が抗議の声を上げてくる。
「むっ。何だよ。いきなりその態度は。って、お前の後ろで膝ついてるのはギルガメッシュか!?」
 ようやく事態に気づいたらしい。さて、この後、英雄王が出すサイは、
「……よく我の前に現れたな雑種」
 立ち上がった英雄王。その姿は先ほどまでの服装とは違い。全身を黄金の鎧で包み込んでいる。やはりこいつが出したサイは『ストーカー』のようだ。
「え? なんで戦闘態勢なのさ!?」
「フフフ……。そうだ。我は今まで何をしていたのだろうな? 雑種に悩みを相談など、我らしくも無い。大体考えるまでもない話だ。こやつを消せば全て丸くいくではないか……」
 あ、ストーカーの理屈だ。完全にそっち側に行ってしまったか英雄王。
「待て。英雄王」
 いくら衛宮士郎が対象とは言え、こんなところでこいつを暴れさせるわけにはいかない。止めるとするか。
「ほう、邪魔をする気か? いいだろう。2人そろって消えうせるが良い。我の最大の力『エヌマ・エリシュ』を見せてくれよう!!」
「わけ、わから無い!!」
「くっ!!」
 私と衛宮士郎が同時に展開したのは五枚の花びらを連想させる魔力の防御陣ローアイアズ。我らが使える最高の防御方だ。が、
「死ね!! 雑種!!」
 振り下ろされるのはエヌマ・エリシュ。いかんせん、威力がでかすぎる。いかん。これは防ぎきれない。

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