私がそんなことを考えていると、イリヤは『あ、そうだ』と、声を上げる。こちらにニコッと微笑むイリヤ。何か(良からぬ事を)思いついたらしい。
「そうだ折角、ここまで来たんだし、あなたのお仕事、手伝ってあげる」
「? どういうことだイリヤ?」
「忘れたの? 私はバーサーカーのマスターよ。バーサーカーとの意思の疎通ぐらい出来るわ」
「そうなのか?」
「ええ」
「………」
 なるほど、確かに彼女ならバーサーカーと意思の疎通が出来るだろう。しかし、冷静に考えればそれも必要ないことだ。凛には『バーサーカーは無理だった』と言えば済むことだ。それに何故か嫌な予感がしてきたし。やはり断ろう。
「折角だが……」
「レディの申し出を蹴るなんて、恥知らずな真似はしないわよね? お兄ちゃん?」 可愛らしく微笑みかけてくるイリヤ。しかし、そこにある感情は明らかに危険なものが含まれている。ここでNOと言えば、即タイガー道場行きだろう。そうなれば、残された答えは1つか。
「……よろしくお願いします」
 私は何かを諦めながら、目の前の悪魔娘に頭を下げる。私も衛宮士郎もどうしてこう女難の相が強いのか。
「素直でよろしい」
 深々と頭を下げる私を満足そうに眺めるイリヤ。さて、これでバーサーカーの悩みを聞くことになった。どうか、無茶なものではありませんように。
「それじゃ、アーチャー。今からバーサーカーの悩みを伝えるわ」
「頼む」
「あ、最初に断っておくけど、これはあくまでバーサーカーの悩みであり、意思だからね?」
「……ふむ」
 すざましく嫌な予感がする。けれど、もう後には引けない。え〜い、なるようになれ。
 イリヤはバーサーカーの肩に乗ると、その口元に耳を向け、やがてかの者の意思を伝えだした。
「それじゃ始めるわよ。え〜と、何々『バーサーカーとして呼び出され、早数ヶ月。聖杯戦争が終わり、他のサーバントは毎日お気楽極楽に平和を満喫して羨ましい。私なんか私服姿すら用意されていないのに……。おまけに今度PS2で発売されるFate/staynight Realta Nuaではフルボイス化が決定しているので、これまで唯一本編でボイスがあるという私の自慢できるポイントもなくなってしまう。ああ、歯がゆい。こうなれば、息抜きに暴れてくれる。幸いアーチャーが目の前にいることだ。せいぜい楽しませてもらおう』だって♪」
「………」
 嫌な予感的中。しかも、それは想定していた事態の中でも最悪のものだ。
 自分の顔が青ざめていくのが手に取るように解る。ああ、目の前のイリヤの姿がブルマ姿に見えてきた。もしかしてお迎えは近いのか。
 絶望に打ちのめされる私。そんな私にイリヤは、
「それじゃ、お兄ちゃん、後はお願いね♪」
 と、気楽な言葉を残して、森の奥へと消えていく。
「………」
「………」
 その場に残される私とバーサーカー。沈黙が辺りを支配する。そして、
「グォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
 その静寂を打ち破る雄叫び。バーサーカーが動き出す。そして私は、
「い、嫌だ〜〜〜〜っ!!」
 と、我ながら情けない悲鳴を上げながら、全力で走り出していた。

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