アインツベルンの森林。その奥、城へと続く道の丁度、中央にそれはいた。
「……と、いうわけなのだが、解るかね?」
「………」
私の目の前にいるそれ、鋼の胸板、バーサーカーは私の問いに何1つ答えを、いや、それどころか言葉を返してこない。
バーサーカー。そのクラスに割り当てられたサーバントは理性を失う。それは目の前の大英雄ヘラクレスも例外ではなく、現在の彼に理性は無い。
そしてそれは解っていたことだ。それなのにこんなところにわざわざ来た自分は律儀なのか、それともただの馬鹿なのか。
(この場合は後者なのだろうな……)
自分の馬鹿さ加減に頭を押さえる。確かに凛は『サーバントの悩みを聞いて来い』と、私に命じた。けれど、このバーサーカーだけは例外と考えるべきだったのだ。実際、彼と私とでは意思の疎通が出来ない。
「……ふぅ。やはり、無駄足だったか……」
私はそう結論に達すると、バーサーカーに背を向け、引き返すことにする。と、
「何が無駄足だったの?」
と、後ろから呼びかけられる。振り向いた先にいたのはこの森の主である少女だった。
「イリヤスフィール……」
「イリヤで良いわ。アーチャー」
そう微笑んでくる少女の笑顔は年相応の可愛らしいものだ。だが、ここで油断してはいけない。彼女は1癖も2癖もあるある種、危険な人物だ。
彼女の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。聖杯戦争の基礎を気づいた3家の1つアインツベルン家の少女。そしてバーサーカーのマスターである。
外見からは予想もつかない強大な力を内に秘めている。そこに加えて性格はどちらかといえば快楽主義者だ。油断は出来ない。現に衛宮士郎も何度か危険な目に合っている。
と、私が油断なく、というよりはあからさまに警戒していると、イリヤはそれに構わず(気づいてはいる)話を続けてくる。
「それで無駄足って何のことかしら?」
彼女はバーサーカーのマスターだ。一応話しておくか。
「実は……」
「ふ〜ん。リンがそんな馬鹿なことをね……」
「そうだ。本当に馬鹿な話だ」
「そして、それが解っているのに付き合って、バーサーカーにまで会いに着たあなたは馬鹿ね」
「それは言わないでくれ……」
「まあ、苛めるのはここまでにしてあげる。一応、あなたはシロウだしね」
「それは助かる」
本当に助かる。ここで彼女がおもしろ半分に私を苛めようとすれば、その隣の大魔神が動くことになるだろう。それは真剣に簡便願いたい。