「それで悩みとは?」
「実は最近、気になる人がいるんです」
「なっ!?」
「何です?」
 『何です?』と、平然と聞き返してくるライダーだが、これは驚愕の事実だ。何せあのライダーが恋愛相談なんて、驚くなと言う方が無理だ。
「いや、君はそういった方面には興味を示すとは思っていなかったのでな……」
「重ね重ね失礼ですね」
 私の素直な感想にこれまた多少、『ムッ』とした表情を表しながら言ってくるライダー。すまないとは思うが、彼女と恋愛というのはやはり結びつかない。しかし、私がいくらそう思ってもとうの本人が言っていることだ。ここはおとなしく聞くとしよう。
「すまない。話を続けてくれ」
「まあ、いいでしょう。え〜、それで私としてはその人ともう少し仲良くしたいのですが、向こうはどうも私を避けているようで……」
「ふむ。つまり、その人物と付き合いたいと……」
「そうですね。『良い関係を気づきたい』と、思っています」
 なんというか、スゴイ話だ。この美女に言い寄られて、それを避けようとする男。それは一体どれほどの男なのだろうか。想像もつかない。なので、ダイレクトに聞いてみる。
「どんな奴なのだ?」
「そうですね……。『凛々しくも、可愛らしさを残す人』と言った感じですね」
「凛々しくも可愛らしいか……」
 それだけ聞くと、以前のセイバーを思い出す。今でこそ食欲魔人だが、以前は『凛々しくも可愛らしい』に当てはまる人物だった。
「ええ。凛々しくあろうと本人はしているのでしょうが、やはりそこは年相応の幼さが残ってます」
 さらにそう付け足すライダー。ますます以前のセイバーが浮かんでくる。が、彼女は女性だ。そしてライダーも女性だ。さらに2人にその気は、私が知る限りは無い。ので、さすがに違うはずだ。
 『凛々しくも可愛らしい』だけではまだ、相手の人物像がつかめない。もう少し掘り下げて聞いてみることにする。
「そうか。その人物の趣味等は解るか? やはりそういったところから歩み寄るのが一番だと思うのだが」
「趣味ですか……。ちょっと解りませんね。ただ、好きなスポーツなら……」
「十分だ。それでどんなスポーツを?」
「弓道です」
「弓道?」
「はい」
「………」
 あ、なんか嫌な予感がしてきた。おかしいな。彼女こそ、今回の企画のオアシス的存在だったはずなのに。いやいや、落ち着け自分。いくらラックEだかって、悪いことばかりが起こることも無いはずだ。
 よしよし。落ち着いてきた。良し。この嫌な予感を潰すために、1つ1つ事実確認をしていこう。
「……その人物は穂群原学園の生徒か?」
「はい」
「出会い等を聞いても良いかな?」
「私達が出会ったのは、前回の聖杯戦争の時ですね」
「………」
 聞けば聞くほど嫌な予感が確定的なものになっていく。ええい、こうなれば一気に最悪の答えかどうか聞いてしまおう。
「……まさかとは思うが、間桐慎二か?」
「違います。あんなワカメではありません」
 冷静に『間桐慎二』という可能性を蹴るライダー。あ〜、なんというか安心した。あれにライダーは勿体無さすぎる。というか、それは世界が決して許さない選択だ。
 さ、危険な可能性が消えたところでその人物の名を聞いてしまおう。
「では、一体誰だ?」
「アヤコです」
「……アヤコ?」
 おかしい。ここに来て日本男児、いや、男性の名とは思えぬ名が出てきた。そして、それと同時に私の頭に『アヤコ』と言う名の少女の姿が浮かんでくる。
「……まさか美綴綾子か?」
「はい」
 迷い無く、平静に一言で肯定するライダー。あ〜、どうやら私の頭に浮かんだ少女で間違いないらしい。なるほど確かに『凛々しくも可愛らしい』という言葉が当てはまる。彼女『美綴綾子』が女性であるというたった1つので、最大の問題さえ気にしなければ何の問題もないだろう。まあ、気にしないというのは無理だが。
 とりあえず、経緯を聞いてみる。
「……ライダー。君はいつから同姓愛者になった? まあ、別に悪いとは言わないが……」
「失礼な。私にそんな思考はありません」
「では何故、美綴綾子の名が出てくる?」
「彼女と良い関係を築きたいというのはおかしいですか?」
 『良い関係』か。確かにライダーは『恋愛関係』とは言ってないな。ならば、それは友人関係を築きたいと言うことだろうか。
「それは友人関係ということか?」
「う〜ん。それも悪くは無いんですが、私としてはやはり『食物連鎖』の関係につきたいですね」
 いきなりためらいも無く、物騒なことを言い出すライダー。
「ちょっと待て!!」
 とにかく止める。今の発言はさすがに聞き流せない。何を思って彼女はこんな危険な発言をするのか。って誰だ。さっき『今回の企画のオアシス的存在』とか言ったのは。
「なんですかアーチャー。そんな大声を出しては他の客に迷惑ですよ?」
 冷静に咎めてくるライダー。いや、待て。今この場でおかしいのは私ではなく君の方だ。
「いや、君は何をそんなに平然と何事も無かったかのようにしている!?」
「? 何かありましたか?」
「今の発言は思いっきりアウトだろ!!」
「どこがです?」
 本当に気づいていないのだろう。彼女は自然な流れのように聞き返してくる。あ〜、こうなれば一から十まで突き詰めてやる。
「『食物連鎖』の部分だ!!」
「それの何処に問題があるというのです?」
「問題だらけだ!! 『食物連鎖』ということはつまり、美綴綾子の血を飲みたいということだろう!!」
 そう彼女にとって当たり前のようなことでも、(元)人間から見ればとんでもない話だ。
「私は吸血種ですよ? 吸血種が血を好んで何が悪いと?」
「いや、それを否定はしない」
 彼女が吸血種という種であることに文句は無い。が、
「血を吸うというのは……」
 その先に『吸われた者の末路』すなわち『死』という一文字があたまを過ぎる。
私が言わんとしていることを彼女も汲み取ってくれたらしい。そして、「ああ、大丈夫ですよ」と、微笑み返してきた。
「安心してください。別に吸い尽くすようなことはしませんから」
「そうなのか?」
 とりあえず、その一言に安心する。が、それも次の彼女の言葉に消えてしまう。
「はい。私は彼女の血を定期的に頂きたいと思っていますから」
「………」
 この美女は『美綴綾子』に自分専用の献血をしろとかなり無茶なことを言っている。あ〜、頭が痛くなってきた。結局、彼女もこの街の問題児か。
 頭を押さえる私に彼女は不自然なぐらい(実際、不自然だが)自然に聞いてくる。
「それで、アーチャー、何かアイディアはありますか?」
「……何かアイディア出さないといけないか?」
「その為に来たのでしょう?」
「いや、恋愛相談ならまだしも、そんな物騒な相談は……」
 まあ、恋愛相談だとしても一般的なことしか答えられないが。
「先程も言いましたが、別に血を吸い尽くすようなことはしません。ただ、献血して欲しいと願っているだけです。大体、吸い尽くしたらそこで終わりじゃないですか」
 確かにそうだ。一回で終わるよりは、定期的に貰うほうが彼女にとっては良いだろう。それに冷静に考えれば、彼女のマスターである『間桐桜』がライダーが人を殺すようなマネは許さないか。
 頭が痛い話には変わりないが、まあ、多少は、先ほどまでは安心できる。しかし、この話で私の中のライダー像は大きく変わった。
「君はセイバーと暮らすようになってから、変わったな」
「私はあんなに食い意地張ってません!!」
 どうやら彼女のプライドに触れたらしい。彼女にしては珍しく強めな口調で否定してくる。食にこだわる部分はまさに同じだと思うのだが。
「解った解った……」
 とりあえず、了解しておこう。ここで彼女を怒らせても仕方が無い。
「それで何か案は?」
 どうしてもそこに行き着くらしい。私としては出来ればそんな物騒な話には参加したくないのだが。まあ、仕方が無い。簡単な。それこそ誰でも思いつくような案を出して、とっとと逃げ出そう。
「とりあえず、下校時間に待ち伏せしてはどうだ?」
「待ち伏せですか……しかし、それでは警戒されてしまうと思うのですが……」
「まずは仲良くなるところから始めるべきだ。下校を付き合い親しくなれば、向こうも警戒しまい」
「なるほど。そのあとは私次第ということですね」
 『その私次第』というところが非常に不安なのだが。
「……まあ、そうなる」
「解りました。それでは私は早速、下調べに行きます。それでは失礼します」
 読みかけの本を棚に直すと、そのままの勢いで店を出るライダー。その後姿に件の少女の顔、泣き顔が浮かぶ。
「すまん。かつての級友よ」
 瞼に浮かんだ『美綴綾子』にとりあえず詫びておく。何か瞼の級友はやたら怒っている気もするが、気にしない気にしない。
さ、気分を切り替えて次だ次。
余談だが、この後、店を出ようとした私は店員に捕まり、ライダーの延滞料を払わされた

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