ザザーン。
 冬木市の港。いつも静かで波の音のみが聞こえるこの場所。そして、この場所を好むサーバントが1人。
 アロハシャツにジーパン姿で釣竿を構えるチンピラ風の男。その周りには缶ビールと缶コーヒー。そしてタバコの吸殻が溜まっている。
 ランサー。これがこの男のクラスだ。男性サーバント中、いや、全サーバント中、最も悩みから縁遠い男だろう。
 私はそんな彼に事情を説明した。
「なるほどねぇ〜」
「………」
 気の無い返事。まあ、こいつは自分が興味の無い話にはこんなもんだ。そして、
「おまえも大変だな……」
 と、そのような感情は一切込められていない言葉で返してくる。あまりにその気楽さにムカつくので、多少嫌味を言ってやる。
「まあな。君のようにバイト、釣り、ナンパと好きなことばかりはしていられぬさ」
 最近のこいつの生活はこんな感じだ。なんと言うか自堕落という言葉が究極的に似合う。しかし、当の本人が気にしていないのだ。嫌味になるはずも無く、
「羨ましいか?」
 と、簡単に返してくる。この時点で私の負けだ。なので彼の問、本人にはそのつもりもないであろう言葉に素直に相槌を返す。
「多少は……」
 まあ、本心だ。気楽に、そして潔いくらいに迷い無く生きるこいつを羨ましく思うところも少なからずはある。まあ、これもこいつには感心が無いことだ。だから、
「そうかい」
 と、そっけない言葉が返ってくる。
 このまま男2人海を眺めながら、ダラダラと話をしていても仕方が無い。ので、とっとと、本題に入ることにする。
「それで、悩みはあるか?」
「小さいのと、大きいのが1つな」
「ほう」
 この男に悩みがあったことは驚きだ。多少、その内容に興味が湧く。
「まず、小さい方からな」
「うむ」
「俺様の憩いの場を騒がせる馬鹿が2人いてな。そいつらが悩みと言えば悩みだ」
「待て、ランサー」
「なんだ?」
「それは聞き捨てならないぞ!!」
 本当に聞き捨てなら無い。馬鹿扱いも問題だが、よりにもよって『英雄王』と、同列というのは納得できない。
 そんな私の葛藤は当然のように、目の前の釣り人には届かない。だから、
「そりゃそうだろ。馬鹿の1人はお前のことだし」
 と、こんなことを言ってくる。
「そういうことを言っているのでは無い。何故、私がギルガメッシュと同列に扱われているのかということだ」
「同じだろ」
 ランサーから、その彼の悩みから見れば同じでも、私は納得できない。なので、全力でそこは否定しておく。
「違う!! 断じて違う!! 私はあんな物量作戦で釣りをしているつもりの男とは絶対に違う!! おまけに子連れではない!!」
「そうだな。お前は機械頼りの道具で、釣り名人気分になっているだけの馬鹿だもんな。確かに違うか」
「くっ……」
 この生粋の釣り人の前では私も英雄王も本当に変わらないらしい。
「まあ、この悩みはお前ともう一匹の馬鹿が、静かにしてくれさえすれば、解決するけどな」
 なるほど、釣り方は自由で良いから、静かにしていろということか。本当にこの男、生粋の釣り人だ。だが、その程度の要望なら簡単な話だ。英雄王と同列扱いされたのは遺憾だが、話は聞いておこう。
「……心に留めて置こう」
 私の返事にランサーは、
「そりゃ助かる」
 と、気だるそうに答える。
 これで、2つの悩みのうち、1つは聞いた。さて、次は大きな悩みの方か。話が脱線しない内に続けて聞いておくとしよう。

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