寺子屋の奥に彼女慧音の姿はあった。当然のように寝ている。

(気持ち良さそうに寝てますね)

 布団の中で丸くなっている慧音。正直、少し羨ましい。

(いけない。早く済ませないと)

 私は袋から布団(妹紅が家で寝ていた布団)を取り出し、慧音の隣に敷く。続けて、妹紅もそこ寝せる。そして最後に彼女らの枕の上にプレゼントを置いて完成。

(誰にも気づかれない完璧な仕事ですわ)

 誰にも気づかれることが無い。というよりは誰も気づくことが出来ない。私の力――時を止める能力を使えば、誰にも察知できない。

(一部例外はいるでしょうけど)

 スキマ妖怪とか腹ペコ幽霊とかその他もろもろの上位な方々なら気づいているかもしれない。けれど、少なくともこの周辺にはそれに気づけるような存在は居ない。つまり、これは完璧。

「さ、次へ行きますわ」

 予定外のことに時間がかかってしまった。遅れを取り戻さないと。

次の日の朝

「………」

 これはどういうことだろう? 昨日、私は間違いなく家で寝た。それは間違いない。間違いなはずなのに、

「なぜ、私は慧音の家に居る?」

 しかも、丁寧に布団まで持ち込んで。

 理由が解からない。本当に解からない。夢遊病? まさか。これまで一度もこういうことは無かった。

(落ち着け、昨日のことを思い出せ)

 昨日は確か、早めに店を閉めて、酒を飲んですぐに床に付いた。少し前にメイドが『24日はクリスマスと言う願いが叶う日』だと言っていたのを思い出して、サンタという老人に手紙を当てた。

(ん? そういえば私はどんな願いを書いたんだっけ?)

 あれ? 思い出せない。そして、何故か嫌な予感がする。

「妹紅、そうだったのか。家族が欲しかったのか……」

「へ……?」

 背後から『声』が聞こえる。

「よく解かった。今日から私が家族だ!! というか、私達は夫婦だ!!」

「け、慧音?」

 恐る恐る振り向く。そこには鼻息を荒くした慧音。その手には一枚の手紙。

(あ、そうだった。酔った勢いで家族なんて書いたんだった!!)

 ヤバイ。色々ヤバイ。このままだと、不味すぎる。よし、こういう時は、

「あ、慧音。ごめん、昨日なんか寝ぼけてここに来たみたい。今から帰る……」

「妹紅、今日からここはあなたと私の家だ。フフフ……」

 「お、落ち着いて……」

 逃げられない。だ、誰か助け……。

「さあ、2人で新しい時代を作ろう!!」

 飛び掛ってくる慧音。その瞬間、慧音の手に握られたもう一枚の手紙に『彼女があなたの新しい家族です。 サンタ』と、書かれているのが見えた気がした。

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