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 第1章 転校生 異変

 夢想邸の朝から約1時間後。音留麻(ねるま)市公立音留麻(ねるま)高等学校。その2−Bの教室にはホームルーム前の僅かな時間を楽しむ生徒達の姿があった。皆、それぞれ知り合いの机に集まり、話しに花を咲かせている。そこにある話題はTVやタレント、雑誌やゲームとどれもたわいもないものだ。だが、それは学生である彼、彼女らにとっては貴重で重要なものだ。もう数分もすれば1日が始まる。それをどうとらえるかは個人の自由だ。退屈だと取る者もいれば、大切ととる者もいる。だが、そこにはストレスという共通点が出来る。誰もがそれを自覚するわけでは無いが、それは必ず生じるのだ。だから彼、彼女らはそれを乗り切るために、無意識の内にこの僅かな時間を大事にする。

 そして、それは彼、夢想望も例外ではなかった。

 望が机に座ったのを見つけて、1人の男が寄ってきた。そして、

「よう今日も朝から元気か!? マイフレンド!!」

 と、から飛ばしてくる。そして、そんな彼に望は冷静返す

「ああ、元気だよ。お前ほどじゃないけどな」

「そうか、元気が一番ってね!!」

 「ハッハッハッ」と朝から景気よく笑う男。彼にはややトゲのある望の答えもたいして意味は無い。彼の名は麻生(あそう)敬太けいた)。このクラス1の馬鹿であり、望の一番の友人だ。外見ははっきり言って美男子だ。その顔立ちは下手な俳優よりも整っており、文句の付け所がない。青く染められた髪も良く似合っている。身長も185pと高く、加えて細身でスリム。しかもこれで成績も良く、運動神経も良いと、本気でその姿は同性には嫌味でしかない。しかし、彼は誰からも嫌われてはいない。先程の望にした挨拶からも解るように彼はよい意味で馬鹿なのだ。天才とも呼べる敬太。しかし、彼はそれを誰かに見せつけるようなことはしないし、そもそも思いつきもしないだろう。つまりはそんな奴なのだ。そして、彼に対する望の位置づけは『何処のクラスにもいるお笑い担当』である。

 いつもハイテンションな敬太。しかし、それはいつものそれよりもより高く感じる。

「どうした? 今日はいやにテンション高いな? もしかしてクスリにでも手を出したか?」

 率直な望の問い。しかし、それはすぐに否定された。

「望、お前は俺を何だと思っているんだ? というか、何でそんな結論になるんだ?」

「いや、いつもハイなお前がそれ以上、ハイになるならクスリが一番な理由かなって」

「そりゃ無いぜ、フレンド!!」

 叫びと共に頭を両手で押さえる敬太。この大げさなリアクションが彼の持ち味であり、このクラスの日常風景だ。そして、そこに、

「今日も飛んでるな、青頭」

 と、いつものように紅璃の突っ込みが続く。

 望と敬太が声の方に顔を向けると、そこには冷たい視線を敬太に向ける紅璃と苦笑する凪芭の2人が立っていた。これもいつもの光景だ。

 敬太は紅璃に、

「紅璃、今日も綺麗だよ!!」

 と、いつもの挨拶をし、紅璃も

「そりゃどうも」

 と、いつも通り返す。これがいつもならばここで終わるのだが、今日は敬太がさらに続けた。

「さすがはマイワイフ!!」

 敬太らしいぶっ飛んだ発言。一応、美人で人気の紅璃にそんなことを平然と言ってのけるのがスゴイ。最もそれは、

 ゴッ!!

 と、いつもより少し速く、敬太へ制裁が下されるだけの結果となる。

「つれないな〜」

「冗談はその存在だけにしとけ、青頭」

 少し涙目で呟く敬太。どうやらかなり痛かったらしい。そして、そんな彼に紅璃は辛辣な言葉で追い打ちをした。

 涙目で頭をさする敬太。望には見慣れたいつもの光景だ。そして、それは凪芭にとっても同じだ。だからそこから続く言葉も、

「大丈夫ですか? 麻生さん?」

 と、聞き慣れたものだ。ただいつものことと解っていてもそれが、敬太を心配するものというのが彼女らしい。しかし、それに答える敬太は、

「もちろんさ、マイハニー」

 と、なかなかふざけている。だから、

 ゴッ!!

「手当たり次第にナンパすんな。この色ボケ!!」

 と、紅璃の拳と罵声が彼を修正する。これで日課のコントは終了だ。

 日課のコントが消化された所で、望は頬をさする敬太に問いかける。

「んで、結局、なんでいつもよりハイなの?」

 敬太は「ああ、そうだった!!」と、声を上げると、真面目な面もちで語り出す。

「実は俺が仕入れた情報によると、今日、このクラスに転校生が来るそうなんだ」

「転校生?」

「ああ、そうだ。転校生だ」

「転校生ね〜」

 望はその単語を繰り返す。正直、それ自体はそれほど珍しい存在ではない。ここ音留麻高校。つまり学校だ。その学校に転校生が来ることは、特に変な話しでは無いだろう。

 紅璃も同じように考えたのだろう。それを直接言葉にする。

「で、その転校生がなんだっていうの? まさか、小学生じゃあるまいし、ただそれだけでハイになってたって言うんじゃ無いでしょうね?」

「紅璃はきついな〜」

 少々、トゲのある紅璃の言葉に敬太は素直に感想を言葉にすると、そのまま紅璃の問いに答える。

「いや、さすがに転校生が来るってだけで、ハイにはならないよ。ただ、その転校生、ちょっと普通じゃないらしいんだ」

「……どういうことですか?」

 『普通じゃない』という所に凪芭が反応する。実は凪芭は学園ファンタジーやジュブナイルといったジャンルが大好きで、よくその系統の小説を読んでいる。そんな彼女にとって、『普通じゃない転校生』という言葉は興味をそそるものだ。

 皆が話しに食いついてきたことが嬉しいのだろう。語る敬太の舌が弾む。

「いや、それがなんか、スゴイところから転校してきたらしいんだ。詳しくは知らないけど、何でも外国の凄いエリート校から来たらしいんだよ」

「エリートですか……」

 そう答える凪芭の声のトーンは明らかに先程よりも低い。まあ、それも仕方ないだろう。別に『経歴が謎』だとか、『実はスパイ』だとかそんな彼女が興味を持つような情報ではなかったのだから。最もそんなものはいるはずもないし、いたとしてもこんな普通の何の変哲もない高校には来ないだろう。

「で、そのエリートがなんなんだ?」

 結局、いまだ答えが出てない事に気付いた望がそれを問う。

「解らないか、望!! 転校生はただでさえ人気者になりやすいんだぞ!? そこに加えてエリートだ。しかも海外だ。そんなのが来たら僕の人気が危ういじゃないか!!」

 絶叫する敬太。望はそんな親友に暖かな眼差しで、

「……おまえ、真剣に馬鹿だろ?」

 と、冷たい言葉をかけてやった。さらにそこに、

「所詮、青頭。小物か……」

 と、紅璃が続ける。

「君らには友情は無いのかい!?」

 2人の言葉に敬太は望と紅璃に非難の眼差しと言葉を向けるが、それは当然、2人とも無かったかのように聞き流す。

 後ろではまだ何か、敬太が言っているようだが、望は敬太の相手を凪芭に任せることにした。しばらくすると、後ろから「明日は良いことありますよ」という凪芭の声と、「今日はまだはじまったばかりだ〜!!」という敬太の声が聞こえてきたが、まあ、それもよくあることなので、特に問題はない。そして、望はそろそろかと時計に眼をやる。

 時刻は8:30。やがてホームルームが始まる時間だ。望の視線に気付き、紅璃と凪芭、そして後ろでいじけていた敬太も、それぞれ時間を確認する。そして、彼女らが席に戻るよりも速く、

 キーン、コーン、カーン、コーン〜。

 と、チャイムが鳴り、続けてガラガラと教室の引き戸が開き、担任の山崎が入ってくる。それより一瞬、遅れ、皆ちりぢりと席へと戻っていく。当然、その中に紅璃、凪芭、敬太も含まれる。

「ほら、おまえら、席につけ!!」

 いつも通りの意味のない怒声が飛ぶ。席に着けと彼が言う以前に、彼が入ってきた時点で皆、席に着いている。そして、いつも通りに「日直、号令!!」と、続く。こうして退屈な時間が始まる。

 皆が起立し、礼をする。そして、座る。いつもの儀式が終わり、これから、いつもならホームルームが始まるのだが、今日の流れはいつもと違っていた。

「ホームルームを始める前に、今日は転校生を紹介する。入れ」

 ガララララララッ。

 戸が開き、『彼』は入ってきた。そして、そのまま教壇の山崎の前に立つ。

 その姿にクラスの女子が「きゃあああああ?」と、黄色い声を上げる。正直、そんなのはマンガの中だけと思っていたが、現実でもこのレベルの転校生なら、声は上がるらしい。

 それは一言で言えば、美少年だ。金色の髪に幼さが残る顔立ち。そして白い肌に制服の上からも解る細い四肢。見た者に無意識に『天使』を連想させる少年。つまりそれほどの美と存在感を持つのが『彼』だった。

 『彼』はチョークで黒板に名を書くと、『ニッコリ』と天使の様な顔で、天使の様に微笑み、

神代(かみしろ)(つかさ)です。よろしくお願いします」

 幼さの残る声で歌うように皆に告げる。

 きゃあああああああああああああああ?

 再度、声が上がる。そんな中、何故か俺、夢想望は彼、神代司から目が離せなかった。

 ◆◇◆◇◆

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが午前の授業の終わりを告げ、昼休みの開始を告げる。今から始まるこの時間こそが、皆が楽しみにしている憩いの時間だ。気の合う仲間と学食に行ったり、売店に買い出しに行ったり、持ってきた弁当を広げたりと、それぞれが羽を伸ばす時間だ。本来ならば。しかし、今日の教室にはそういった日常のささやかな娯楽を営む者の姿はほとんど見られない。クラスの大半は、

「ねえねえ神代君ってどこから来たの?」

「部活は決めたか?」

「一緒に飯食わねぇ?」

 と、神代の机に集っている。望はそれを半ば呆れた様子で眺めていた。クラスの大半が1人の転校生の机に集まり騒いでいる。正直、望にはそれが信じられないし、また着いても行けなかった。

 転校生は不安だろうから親切にするというは解る。しかし、これはそんなものではない。皆、たった1人の転校生にただ騒いでいるのだ。望はふと、紅璃が朝、敬太に言っていたことを思い出す。そして、

「確かにこんな光景は小学校ぐらいだよな……」

 そう口から零れる。ただの独り言だ。が、それを聞いた者が返事をしてきた。

「だよね、あんなの変だよね!!」

 俺がそっと声の方に振り向けば、悔しそうな表情をし(実際にくやしいんだろうが)その手に持った弁当箱を振り回す敬太がいた。それは確認するまでもなく、いつもどおりこれから俺の隣で食べるつもりの弁当なのだろうが、その中身はいつもとは違い、かなり危険なことになっているだろう。

「とにかく落ち着け」

 近くで弁当箱を振り回されるのも迷惑なので、とりあえず隣の机に座らせる。が、当然、敬太は落ち着かず、叫び続ける。

「だって変だよ!! なんで転校生が僕よりも人気なのさ!? 納得できないよ!!」

 それだけ言うと、机に突っ伏して泣き出す。と言っても敬太のこれはあくまで鳴き真似。お約束だ。だから、俺は声をかけず無視してやる。が、それに無視せず答える声――紅璃の声が聞こえてきた。

「確かに変ね……」

 声の方に振り向く。そこにいたのは当然、紅璃だ。その隣には凪芭もいる。2人も良く俺達と昼食を取る。今日もそのつもりで来たんだろう。2人の手にはそれぞれ弁当箱が握られている。が、その2人の表情は昼食時には似つかわしくない険しい物だ。

「2人ともどうしたんだ? あいつがどうかしたのか?」

 紅璃は視線を神代に向けたまま答えてくる。

「何も……」

「何もって……」

「解らないけど、あいつは何か……」

「紅璃?」

 紅璃は今だその視線を神代に向け続けている。その何かを含んだ視線を。そして、それは紅璃の隣にいる凪芭も同じようだ。

「凪芭?」

 呼びかける。それに帰ってきた答えは、

「あの人、変ですよ……」

 と、凪芭らしくない、冷たく静かな声だ。

 2人の異変。それは敬太のただの嫉妬とは明らかに違うだろう。敬太自信もそれに気付いたらしく、2人に恐る恐る訪ねる。

「……2人ともどうしたんだい?」

 これに2人が返した答えは、

「何でもない」

「何でもありません」

 と、明らかに異常な答えだった。

 結局、このあと、4人は教室が落ち着けないと理由で、敬太が所属する美術部の部室で昼食を取ることとなった。

 

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