閉会式&エピローグ
『華音高校第36回 創立祭最優秀クラス賞は2−Bです!! おめでとうございます!!』
そんな放送が流れたのが閉会式の後、俺たち生徒が各々のクラスに戻った直後、今から10分前だ。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
クラス中に歓声が響いたの覚えている。何だかんだ言って、俺も嬉しかった。当日である今日こそ俺はそれほど参加していなかったが、その下準備の段階では我ながら珍しく良くがんばったものだ。これは今日、あちらこちらで醜態を晒していた北川も同じで、あいつも俺に付き合って毎日遅くまで残ってやっていた。
裏方に徹したとは言え、評価されたということはやはり嬉しい。こんな晴れ晴れとした気持ちは久々だった。え? 過去形になってるのは何故かって? それは今、俺達の教室に生徒会長様が来ているからだ。
生徒会長3−C久瀬英夫。嫌味な男。陰険。アホ。エリート気取り。メガネ。以上。
生徒会長様は先ほどから長々と、『あいさつ』をしてらっしゃる。本当に迷惑だ。さっきまで歓声が上がり、『これから打ち上げやろうぜ!!』とか『カラオケいかね?』とか、盛り上がっていた教室が嘘みたいだ。
長々と続く挨拶。それもどうやら佳境に入ったらしく、久瀬が締めに入る。
「……と、この様に歴史ある我が校の文化を祝う祭りとして、2−Bの出し物『コスプレイチゴサンデー喫茶』は優秀なものであったことをここに評価します」
久瀬からクラス委員の斉藤に表彰状が手渡される。どうやら、ようやく終わるらしい。
斉藤が表彰状を受け取り席に戻る。これで生徒会長様も自分のクラスに帰ってくれる。とか、思っていたが、まだ、全部は終わっていなかった。
久瀬は廊下から、他の生徒会役員に巨大なダンボール箱を教壇まで運ばせる。
「それでは記念品の授与式に入ります」
そういえば、豪華賞品とかいうのがあるんだったけ。
久瀬はダンボールをカッターで開けると、教壇から偉そうに言ってくる。
「これはクラスに1つの予定でしたが、皆様の働きに免じ、2−B全員分用意しました。さあ、皆さん受け取ってください」
ずいぶんと気前のいい事を言う生徒会長様。まあ、生徒会から配られるものだ。せいぜい鉛筆とノートが関の山だろう。
俺がそんなことを考えているのに対し、隣に座ってらっしゃる従姉妹(?)はやけに嬉しそうにしている。
「祐一、なんだろうね♪」
「名雪はえらく楽しみにしているんだな?」
「それはそうだよ〜」
「なんで?」
いくらなんでも名雪の期待は大きすぎる。俺が疑問に思っていると、美坂も聞いてくる。
「知らないの相沢君?」
「何を?」
俺の問に答えてきたのは北川だ。
「あの豪華記念品は3万円相当のものなんだぜ」
3万という所をやたらと嬉しそうに強調する北川。しかし、いくらなんでもそれは信じられない。
「嘘だろ?」
「本当だよ。だって生徒会室の前に1週間前から張り出されてたよ」
名雪の言葉に北川と美坂も同意する。どうやら知らなかったのは俺だけらしい。
「3万円か、すごいな〜」
さすがにそう聞くと、興味も出てくる。人間現金なものだ。様々な予想をしながら俺は回ってきた生徒会役員から細長い箱を受け取った。
「さあ、皆さんに行き渡りましたね?」
全員に行き渡ったのを確認する久瀬。そして、久瀬は皆にGOサインを出す。
「それでは皆さん、一斉に箱を開けてください!!」
一斉に箱を開ける2−Bの面々。俺も当然、その一人だ。細長く真っ白な箱。フタをあけると、そこには……。
教室中から音が消えた。そこには僅かながらの音も存在しない。それはこの『3万円相当の豪華賞品』のせいだ。
「……あれ、皆さん、どうしたんです? 何故、歓喜の声を上げないのですか?」
『……………………………………………』
「ああ、私が前にいるから、遠慮しているのですね? 今日は無礼講ですよ、さあ、遠慮なく歓声を」
『……………………………………………』
「あれ、もしかして感動のあまりに声が出ないと言うことですか?」
『……………………………………………』
「あの、皆さん? もしもし? 我が久世家特注の『伝説の生徒会長久瀬英夫ブロンズ像』ですよ? ここは感涙の涙を流すところですよ?」
俺の、いや、俺たち2−Bのクラスメイト全員の目の前にある久瀬のブロンズ像。これが豪華賞品の正体だった。なるほど、そう来たか。確かにこういったものは高いって言うよな。
沈黙が支配する2−B。そこに命知らずな生徒会長様が命知らずなコメントをほざきやがります。
「なんですか、このクラスは!! 私のブロンズ像を目の前に感動も出来ないとは!! 本当に空気の読めないクズばかりですね!!」
『ざけんな!! こんなもんいるか!!』
「うぼわっ!?」
一斉に生徒会長様に投げつけられるブロンズ像。ブロンズ像で埋め尽くされる久瀬。こうして、表彰式は終了した。
◆◇◆◇◆
久瀬に一斉にブロンズ像を投げつけた後、俺たちは各々に解散していた。俺は名雪と北川、美坂の4人で下校中だ。話題は当然、最後の悪夢―表彰式だ。
「くそ、最後の最後でアホらしい落ちがついたな」
思いっきり吐き捨てる俺。今考えても、アホらしく、そしてムカつく賞品だ。
そんな俺に北川も同意してくる。
「だな。まさかあんな商品とは思わなかったぜ」
やたらとテンションの低い北川。こいつは特に期待していたから、そのショックも俺よりも大きいようだ。
「さすがに今回は私も引いたわ……」
美坂もげんなりとしている。まあ、彼女の場合は賞品云々よりも、その賞品のために詐欺に走った妹の方(休憩時間に様子を見に行ったらしい)でげんなりしているポイが。
「うにゅ〜。百花屋の3万円分食べ放題チケットだと思ってたのに〜」
どさくさにまぎれてアホなことを言う名雪。しかし、あの賞品を思えばそっちの方が億倍ましだろう。なんせ、あの賞品は誰一人持って帰らなかったのだから。
ローテンションで道を歩く俺たち4人。そんな中、このまま終わるのは嫌だと、言うのが丸分かりの意見を北川が言ってくる。
「なあ、これからどうする?」
「私は予定無いけど……」
と、静かに答えてくる美坂。そして、それは俺も同じだ。
「俺も……」
俺も今日はこれからすることは無い。
『暇』と答えた俺と美坂。そんな俺たちに名雪が素敵な提案をしてきた。
「なら、みんな家で打ち上げやろうよ」
「いいの? 名雪?」
いきなりの提案に嬉しいながらも、戸惑う美坂。そりゃいきなり家で打ち上げとか言ったら迷惑になるんじゃないかと思ってしまう。俺も同じ事考えたし。
けど、俺と美坂の心配は難なく名雪に拭われた。
「うん。だって今日は元々そのつもりでお母さんに頼んでおいたもん」
ようするに名雪は最初からそのつもりだったのだ。本当に用意のいいやつだ。
「よ〜し、なら漢、北川潤も御呼ばれしちゃうぜ〜」
ハイテンションで言ってくる北川。さっきまでのテンションが嘘みたいだ。しかし、元に戻ったのは良い事だ。なので、俺もヤツをいつもどおりに扱ってやる。
「お前は呼ばれなくても来るだろう」
「後ろで、それは無いぜ相棒〜」とか、言っている北川。ほら、これで、いつもどおりだ。
そんな北川は置いておいて、俺は名雪に1つ提案する。
「なあ、皆も呼んでいいか?」
あゆと真琴は既に水瀬家なので、ここで言う皆とは栞、舞、佐祐理さん、美汐、斉藤の5人だ。
俺の提案に名雪は笑顔で、
「うん!!」
と、答える。その笑顔は俺がいつも見てきた彼女のものだった。こうして、俺たちの創立祭は最終プログラム『水瀬家打ち上げパーティー』へと突入していく。
雪…
雪が降っていた。
7年前と同じ真っ白な雪。
けれど、それは昔のものとは違う。新しい季節へと進む僕たちに手向けられた空からの贈り物だ。楽しいこと、バカなこと、悲しいこと、僕はそれを乗り越えながらこれからも生きていく。皆と一緒に……。
終